坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  07



<男子トイレ>


「……はぁ……」


男子トイレの個室の壁に寄りかかり、重いため息をついた。目を伏せる。自然と眉間にシワが寄った。


ヤバイ……目眩(めまい)がする……。目の前の景色が目が回ったようにぐるぐるぐるぐる……きもちわるい……。


そこに耳障りな大声が飛び込んでくる。


「あれ、ぅぉ、ここ男子トイレ!」
「は?」
「すみませんでした!!」


一方的に驚いてなぜか謝って消えた。……女か……。男子トイレと女子トイレ間違えるな……。マーク見ろ、誰だか知らないが、このおっちょこちょい……。


そして……さっきの奴の声……駅で聞いたような……?


まさか……な。


自分の推測に首を振り、打ち消す。また深呼吸をして、小田達のところまで戻ろうとした。


だが……


「随分、顔色悪そうじゃねぇか」
「……、」


トイレの入り口には、口元をいやらしい笑みで歪めた翔がいた。


「ああ、もう行く」


力なく手を振り、翔の横を通り過ぎようとするが、「待てよ」と言われ肩を壁に打ち付けられる。


それだけで、ぐらっと頭が揺れるような、酷い目眩がした。


「……っ……乱暴な」
「ちょっと話しようぜ」


俺は貴様などに話はない……いつものように言おうとしたが、口をつむぐ。


余計なことは言わない方が良い……いま、俺は小田の彼氏――……友人のコイツと気まずくならせてはいけない……イラつくが。


翔は、ニヤニヤ笑いながら壁に背をついている俺の前に立ちはだかる。コイツの方が2、3センチ背が高い。見下ろされ、余計イラついた。


……なるほど、朝義は毎回こんな気分を味わってたのか。


最近はフロウドからも馬鹿にされてるからな……成長は人それぞれだと言うのに。


「おい、聞いてんのか?」
「ああ……すまない」


話が逸れた。


「……ムカつく野郎……」


嫌悪感丸出しで言われ、思わず「気が合うな」と言いそうになった。


こっちだってこんなことされて、イラついてるんだ。ムカつく野郎なんて言われたくない。


翔は俺を睨み付けていたが、ふっと笑う。



「アンタさ、真姫と付き合ってねえだろ」


……なるほど、そういうことか。



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