05
小田に引っ張られ、映画館と別の店の間で足を止めた。
さっきの乱暴さとは打って違って、彼女は優しく俺の頬に触れた。
「坂城、大丈夫?」
「え?」
「顔、白い……」
心配そうに俺の顔をのぞきこむ。だが、俺は「なぜ?」と聞く。
「なぜって……」
「心配は嬉しいが、気にしないで良い。こんなことしたら、怪しまれるだろう?」
これくらい何とも無い。映画に没頭出来るだけの体力があるのならば、大丈夫だ。
小田は眉間にシワを寄せて、首を振る。
「そんなことより坂城の体調の方が大事じゃない」
「俺は小田との約束の方が大事だ」
約束を守ることが第一。自分の体調なんて気にするほどでもない。
●ァイト一発ー飲んだしな。
だが、小田は納得せず、大きくため息をついた。
「坂城、少しは自分のこと考えて」
「俺ほど自分のことを考えている奴はいないと思うが?」
他人のことなんて、考えても無駄だろうし、俺は俺で手一杯だ。
「嘘つき」
「嘘なんて……」
「坂城は、他人のことばっか考えてる。お節介だよ。中学から変わってない。朝義のこと心配したり、風紀委員として他人に注意促したり、わたしのために頑張ったりさ」
「それが悪いと?」
「良いことだけど、自分のためじゃない。全部他人のためじゃない。しかも自分は損ばっかり」
「……」
……まあ、その通りだが……。
それだけで自分のことを考えてないことになるのか?
首を傾げて小田を見る。小田は俺の目を見て言う。
「図星。人は自分で手一杯だよ。坂城は他人で手一杯って気がする。いつだって他人優先。誰かを注意する、委員会の仕事、他人の願いを聞き、叶えて何になるの? 自分の時間ないでしょ? 部活、委員会の仕事、勉強する時間は自分の時間じゃない。わたしは今日一日付き合って貰ってる立場だけど、断っても良かった。絶対わたしと会ったときから、体調悪かったと思うから。
そんなんじゃ、いつかいっぱいいっぱいになるよ。"溺れる"」
「……溺れる、な」
良い表現だ。
だが、それならもう溺れてる。
だって、
「……俺は困った奴を見捨てて置けないんだ。朝義はともかく、だらしない奴は虫酸が走るし、目をつぶるという選択もあるが、我慢ならない。
小田、俺がどんな性格か知ってるなら、今日は付き合わせてくれ。
大丈夫。倒れはしない」
「――……、」
倒れてたまるか。
……このまま放っておくと、翔が本格的に小田を狙いそうだ。
そうなったら、あの賑やかな仲間にヒビが入るだろう。
やっと人の輪に入れた小田を一人にするわけにはいかない。
念を押すように「倒れてたら、針千本飲んでやる」とお約束の約束を言い、やっと小田は堪えるような表情をして、頷いた。
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