坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  13




彼女のお願いを軽く受け(元から拒否権はない)、近況や昔話に花を咲かせる。


「今は、どこに?」
「志良森に住んでる。お祖母ちゃんとお父さんと一緒に住んでるの」
「志良森……二駅先ではないか」


なんと、意外に……距離にすると遠いのだが、電車では二駅先。


約10分程度で着く。


「うん。お父さんと二人より、お祖母ちゃんと一緒に暮らそう、って言ったの。ずっと楽だし、学校も近いし」
「学校……志良森ということは、青葉?」
「そうそう。高等部生。良い学校だよね」


青葉学園……あの少女が通う学校。なんだか、不思議な感じだ。小田と少女が一緒の学校に通っている……うむ……変な感じだ。


「変な制度に、面白い理事長。学校内広すぎて迷子になるっつーの」
「そんなに広いのか?」
「だって、小等部がなぜか四つに分けられてて違う敷地だけど、中等部で統合、高等部は色々出来るし、それぞれの体育館が三つ……それにグラウンドが三つだよ? どんだけ広いんだっつーの! あ、寮もある。中等部で入る男女の寮」
「……」



ひろっ!


少女はそんなところに、通っているのか……ていうか、これで私立じゃないっておかしすぎる!


「二つ名って制度も面白いよ。みんなに合ってる二つ名が付けられるの」


それなら、聞いたことがある。なぜか入学すると同時に、二つ名が付けられるの制度。それぞれ、自分に合った二つ名が付けられる。


「お前の二つ名ってなんだ?」


気になって聞いてみる。だが、小田は、イタズラっぽく笑い、「教えなーい!」と楽しそうに言う。


「なんでだ」
「気に入ってるし、まあ、坂城は『正義』だよね」
「『正義』か……」
「うん。一番似合う」


そう言われると、嬉しい。


俺の『正義』は自分の信じることを、悪いと思えることを正すことを『正義』と言っているのだけど……。


ふと――……あの少女の二つ名はなんだろうか、と思った。


明るく馬鹿な少女……。


――……『馬鹿』ではないと信じたい。うん。『馬鹿』ではないよな。


……少女に対して、大変失礼だが、どうにも馬鹿過ぎてアレなので、単語が馬鹿しか思い付かない。


頭を振って、くだらない考えを振り払う。


時計を見ると、11時になる頃だった。



「今から、一人で帰れるか?」
「大丈夫。お父さんに"ちょっと野暮用で遅くなるから"って言ったら、迎えに来るって」
「野暮用って……」
「野暮用だもん。明後日は、10時に志良森の駅。時間厳守で、よろしく」
「志良森で良いのか?」
「知り合いに見られたら、厄介でしょ。だから、こんな時間に設定したんだから」


それを聞いて彼女も、ちゃんと考えてるんだな、と思った。


それに了承し、電車が来るまでまた少し、話した。


小田は、見送る時に、「良いものあげる。手、出して」と要求してきた。


「こうか?」


言う通りに、片手を前に出す。


小田は、そうそう、と言って、なにかを俺の手に載せた。


俺は、それに気を取られ、下を向いた。


「坂城、」
「……?」


ちゅ、



彼女に呼ばれて、顔を上げようとした時、――……彼女は俺の額にキスをした。


「ッ!?」
「イタズラ大成功ー!」



そう言って、小田は、ホームに駆け込んだ。



んな、



「ホームは走るな! じゃ、なくて!!」
「あはは! じゃあね、坂城。また明後日!」


そう言って、小田は、行ってしまった。


「お前な〜〜〜!!」


顔が熱い。やられた。不意討ち。


額に残る……柔らかい感触。



久しぶりの感情の高ぶり。




(ええい! 額にキスくらいがなんだ! 篠塚先輩なんて……考えたくない)


あの人を思い出したら、げんなりした……。


そして、小田がくれたものを見る。


「……金平糖……?」



黄色の金平糖。



普通のものより、粒が大きい金平糖だった。


金平糖なんて、久しぶりに見る。


「……適当に持ってて、キスの陽動に使ったんだろうな……」


――……乱暴に額を拭う。


キスなんてもうしたくない。……どんなキスであってもだ。


腹いせにパクっと食べ、ガリガリと噛み砕いて食べてやる。


砂糖のお菓子は、口の中で溶けて消えた。






(口の中で溶ける、優しい味)



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