05
おだ、まき……?
「――……、」
その名乗った名前と声……。
小田真姫……。
思い出した瞬間、受話器を取り落としそうになった。
なんで俺の家の電話番号を知っているとか、なんで今さら、なぜ今の……、と色々な疑問がわきあがって消える。
『おーい。坂城? 坂城正紀だよね? つーか、坂城じゃなかったら、わたしちょー恥ずかしいじゃん』
「……俺で合ってる」
『おお。やっぱそうじゃん』
小田真姫は、久しぶり久しぶり〜とフレンドリーに言う。俺は、それをピシャッと突っぱねる。
「何の用だ」
『わ。冷たいんだねえ』
仮にも元カノに。
ククッと笑う声。
俺は、歯噛みする。
「――……二年も前だ」
『ああもうそんなか。あのさ、元カノよしみで頼みがあるんだよね』
聞いてくれるよね、 坂城?
有無を言わせぬ、声。
ああ、こういうことか。
あの時、「謝っても許せないからさ、いつか一個だけ言うこと聞いてよ」とお願いされた条件付きの別れ方。
「――……聞く。約束だからな」
『坂城のそういう律儀なところ、大好きだよ。……大嫌いでもあるけど』
小田真姫は、終始楽しげで、『直接話したいから、今日の21時、駅前ね』と一方的に言って、電話が切られた。
「――……、」
ツーツー……と無機質な音を鳴らしている受話器を取り落とす。
しばらく、そこから動けなかった。
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