坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  11



一流、と言われてピクッと反応する。


――……アイツとなんて比べられたくない。アイツだって同じことを思う。


何も言わなかったが、内心ではそう思った。


複雑な感情。アイツと俺の中にある確執。


協力はする、お互いに関わることもある、だけど、もうけして相容れることはないだろう。


――……アイツと俺はそういう関係なのだから。


頭が鈍く痛い。過去に引きずられる。嫌だ。思い出したくない。


「えー」という暢気な秋穂の声が聞こえてきた。


その声ではっと、現実に戻された。


秋穂はストローいじりながら、「でも一流さんみたいなツンデレ店員なら、うち喜びますけど」とニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべながら、言う。


ツンデレ……? 確か……日常ではツンとしているものの、思いを寄せた人と二人きりになると、デレっとする事……だったか。


なるほど、アイツにぴったりな言葉だな。


「最近は、ヘタレだけどな」
「ヘタレな一流さんかあいいよう! 坂城さんといつ付き合うよて」
「そんなことは天地がひっくり返ってもないしそんな腐ったことしか考えることのできないお前の頭をぶっ叩きたい」
「すいませんでした調子に乗りました許してくださいィィイイ!!」


カウンターに頭をぶつけながら、謝る馬鹿(あきほ)に「怒られると分かるだろうが」と呆れを含んだ声で言う。


すると、クスクスと笑う声が聞こえた。


「ふふ……正紀くんと秋穂ちゃんは仲が良いのね」
「?」
「なんでもないわよー。あ、ケーキ食べましょう! ちょうど焼けたの。みんなもお祝いしてね」


お祝い、と言われて慌てる。


「そんな大したことじゃ……」
「はいはい! カウンターに行った行った!」


琴子さんにベシベシと背中を叩かれ、カウンターの奥から追い払われる。しぶしぶ、秋穂の隣に座り、ため息をつく。


「お祝いって、なんですか?」
「さぁ……。あ、もしかして坂城くんが生徒会長になったお祝い?」


聡い雪白が、お祝いがなんだか気づく。


「……しなくても良いと遠慮したんだがな……」


気まずそうにそう言い、はー……と息を吐く。


「良いじゃない。琴子さんの気持ちなんだし、ケーキ食べたいし」
「お前はケーキ狙いなんだな……」


「ケーキが食べれるなんて、ラッキーだわ」と機嫌の良い雪白。祝う気持ちは全くないのだろう。そして、雪白の隣にいる椎名が心底嫌そうな顔をした。


「……うわぁ、こんな人が生徒会長が激しく嫌だ」
「聞こえてるぞ、椎名」
「幻聴じゃないですか」


いけしゃあしゃあと……!


俺だって出来れば、風紀委員長の方が気が楽なのだ。一年で生徒会長など異例中の異例。


まだ取れない。不安とも違う何かが。違和感が。


そこで、一番騒ぎそうな秋穂が静かなことに気づく。


チラと隣の秋穂を見ると……キラキラした目で俺を見ていた。



その目にギョッとする。



「すご……」
「へ……」
「凄い凄い凄い! 坂城さんって高校一年ですよね!? それで生徒会長って……漫画みたい!」



ガンッ



最後の言葉にテーブルに頭をぶつけた。


「漫画ってお前なあ!?」
「だって、よくありますもん。一年生で生徒会長……うわぁ! すごっ!! 坂城さんなら、俺様生徒会長狙います! 狙ってください!」
「お、俺様……?」


何か良くわからない言葉が、入ってきた……。俺様生徒会長ってなんだ? 何を狙うって?


秋穂から、キラキラした目を向けられたまま、戸惑う。


すると、雪白が爆笑し始めた。


「く、ぶ、……あはははは!! 秋穂ちゃん最高!! くくくく……」
「おい、雪白、なぜ笑う!?」
「可笑しいからに決まってるじゃない。 あー……本当、楽しい……」
「? お前まで可笑しくなったのか……」


今日の雪白は、稀に見る機嫌の良さだが、本当に可笑しくなってしまったんじゃないかと思う。


コイツがこんなに声をあげて、笑うのを初めて見た。


そこへ、琴子さんがホールのケーキを持ってくる。



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