坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  07




「坂城さんが一流さん家で働いてる〜ウケルッ」
「何がだ!」
「いえ、なんとなくっす」


相変わらず……三週間ぶりに会ったが、いつもの調子だ。


そして、正しい敬語を使え、敬語を。


「久しぶりね、秋穂ちゃん、菫ちゃん」
「お久しぶりです、あやめさん」
「あやめさんだ〜久しぶりですっ」


雪白がにこやかに挨拶し、少女二人も笑顔で返す。そして、二人は自然の流れで、雪白を挟んでカウンターの方に座った。


「今日は二人?」
「はい。月一の食料買い出し日です」
「たくさん買いましたよ〜」


二人は、確かに店に入ってきた時、スーパーの大きな袋を提げていた。


というか、なんで二人で、スーパーで買い物? 何かお菓子でも作るのか?


そう聞くと、「言ってませんでしたっけ? うち寮暮らしですよ」と言われた。


「寮!? って驚くことじゃないか……五人組制……だったか?」


そう返すと、雪白が説明してくれる。


「そう。青葉学園は小・中・高とエスカレート方式で寮制。


けしてお嬢様学園ではないのだけど、いささか特殊な学園よね。
2つ名が1人1人につき、5人組制度という制度があるの。

簡単にいうと連帯責任。
1人でも課題が提出が遅れたら全員で居残りなど


学力向上のための素晴らしい制度だと校長及び理事長+PTA会長が言っているらしいわ」


青葉学園は、隣町にあるということで、鳳有とも交流がある。生徒会や風紀委員会で一度、見学に行ったことがある。


綺麗な校舎に、整った設備、自然に囲まれた立地。


マンモス校、という印象を受け、これがなぜ金持ち学園じゃないのか不思議に思った。


そうか……秋穂や椎名は親元を離れて暮らしているのか。


なんだかコイツが寮暮らししてるなんて想像つかない。


「買い物してきたということは、ちゃんと自炊してるんだな」
「三食自炊ですよー。うちと料理上手い子が交代で作ってます」と返ってきた。


「凄いな。……お前、大丈夫なのか? 包丁で指切ったり、油はねて騒いだり、熱い鍋のふたで火傷したりしてないか?」
「失敬な! それは一通りやりましたけど、今もたまにしますけど、ちゃんと料理出来ます!」
「それはちゃんとなのか!?」
「秋穂は、騒がないで出来るようになったら、完璧だよねー」


雪白の右隣に座っている少女――……確か椎名菫(しいなすみれ)……という名前だった気がする。その少女が、秋穂を見ながらそう言った。


「騒がないでって……」
「さっちゃんが当番のときは、普通の家庭みたいで、秋穂の当番のときは、誰かが夫婦喧嘩してるみたいな?」
「どんな例え!?」
「A型とO型の違い?」
「雛とうちどっちも血液型分からないんだって!」


俺は椎名を、なんだか変な奴だな……と思った。例えがおかしいし、さっきから目が笑っていない。これが普通なのか、秋穂は特に突っ込むことなく淡々と会話をしていた。


「そういえば、そうだった」
「ていうか、菫、眠いでしょ」
「つーかーれーたーってさっきから何回も言ってるじゃん」


椎名はへにょーんと、カウンターにふせる。


秋穂は、あー……という顔をして、俺に向き直る。


「坂城さん……って注文して良いですか?」
「ああ、注文を取るのを忘れていた」


秋穂につられ、つい、自分の仕事を忘れていた。何が良い? と聞こうとしたとき、ぼそっと聞こえた。


「……注文取るの忘れてたって……それでもバイトかよ……」
「……っ?」


確かに聞こえた。


雪白でもない、秋穂でもない。俺を揶揄(やゆ)する声。


自然と、椎名の方に目を向けていた。


椎名は、ふせたまま動かない。


「しい……」
「あああっあのっ! オレンジジュース二つで!! それと今のは幻聴です!!」


椎名に声をかけようとしたとき、秋穂が焦った声を出して、メニューを注文した。


ちらっと椎名を見たが、何も言わず……秋穂に「分かった。オレンジジュース二つだな?」と確認を取って裏に下がった。


prevnext
しおりを挟む




back


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -