坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  06




「あら、ヘタレ朝義をからからいにきたら、元風紀委員、新・生徒会長の坂城正紀くんが居たわ。こっちは全くと言って良いほど、暇じゃないけど、話相手になってあげるわ。坂城くんってボッチで可哀想だから」
「帰れ」


……よりによって、コイツか……。


綺麗な顔が、楽しいそうに輝く。


――……雪白あやめ。


雪白財閥の一人娘にして、跡取り。自称他称・天上天下唯我独尊雪白あやめ様。やりたい放題好き放題。楽しいことが好きだと言うが、周りを巻き込むな。迷惑だ。


そして、俺はコイツの何でも知っているような顔が嫌いだ。


人を見透かしたようなことを言う、コイツが嫌いだ。


すべて自分の思い通りになる、と思っていそうな感じが嫌だ。


とにかく、俺は、雪白があまり、好きになれない。


ハッキリと物事を言う奴は珍しいので、嫌いとも言えないのが、微妙なところだ。


「帰れって私、一応お客よ? お客に帰れって言うの? ていうか、笑ったら? 眉間にシワ寄せたまま接客するの? アホなの? 社会に出たら、嫌な同僚にも笑顔浮かべて……」


「お前はよく喋る奴だなあ!? そんなことは分かっている! ただ、お前相手に笑顔なんて作れるか! お前に笑顔を向ける自分を想像するだけで、鳥肌が立つ!」
「あら、私もそう思ってたところよ」
「なら、言うな!」


ああもう、調子が狂う。


だから、嫌なんだ。雪白の相手は。


それでも、琴子さんに押しつry……任された仕事はこなさなければ、いけない。


低いトーンで雪白に聞く。


「注文は……」
「オレンジジュースと何か軽くつまめるもの」


アバウト……と思いながらも、カウンター越しに見てきた琴子さんの仕事を思い出す。


……確か、ジュースやデザートは、奥の方の冷蔵庫にあったはず……。琴子さんが、「クッキー食べる?」と聞いてきたから、軽くつまめるものは……クッキーでいいはず。


クッキーは棚の中か?


一つ一つを整理して、有るものの場所を当てていく。


三分後、無事、雪白に「お待たせいたしました」と言って出せた。……笑顔がひきつったのは、しょうがない。


「クッキー、美味しそうね」
「手作りだそうだ」


綺麗な一松模様やうずまきになっていて、とても美味しそうだ。さっき、遠慮しないで、食べれば良かった。


雪白は、パクっと一口食べた。サクッと、とても良い音と、香ばしい匂いが広がる。


「美味しいわ」


素直にそう言った。


「それは、良かった」


自分が作ったわけじゃないが、琴子さんの作ったものが褒められて、嬉しい。自分も、褒められたような気になる。


「こういう、手作りって好きなのよね。銘菓とかよりはずっと」
「そうなのか? 意外だな」


雪白は金持ちとあって、高価な物を好むのかと思っていた。


「まあね。――……値段が高くて美味しい物は、たくさんあるわ。けど、手作りって形が違ったり、味が一定じゃなかったり……一つ一つ、何か楽しくない? そういう意味で、好きなのよ。温かく感じるし」
「お前がそういう感性を持っていたとは、本当に意外だ」
「心外ね。まあ、良いけど」


そう言って、クッキーをもう一口、口に運んだ。


「おいしい。そういえば……秋穂ちゃんとのメール楽しい?」


なんとなしに思い出したのだろう。秋穂、と言われてあー……と思う。


「……言ってないだろうな」
「言ってないわよ。取引は成立しているもの」


……とある事情(0皿目参照)により、俺は中学生の少女とメル友になっている。メル友になって一ヶ月、俺からメールすることはないが、少女からは定期的にメールが来る。


中身は……変な内容の物が多い。メールでもテンションが高く、相変わらず、きちんとした敬語は使えていない。


この前の紅葉の写真付きメールは、紅葉がとても綺麗で良かったが……宛先を間違えたようで、「凄くない? 超綺麗!」と敬語なんてなかった。最初は「ふざけるな……」と打とうと思ったが、速攻謝りのメールが来た。ひたすら謝っている文面で、ああ、間違えたのか……と諦め半分呆れ半分。


そんなハプニングも去ることながら、よく続いていると思う。


「なら、良いんだ」
「秋穂ちゃん可愛いでしょー?」
「可愛い? ……馬鹿としか思えん……」


容姿のことを言うなら、まあ、普通だろうが……良い意味でも、馬鹿だ。


先の例の通り、ドジで抜けている部分が多く、行動も考えなしだ。


……この前なんて、不良に絡まれてたしな……。


その時、カラン、と店の扉が開いた。


「こんにちは!」「こんにちは〜」


見覚えのある二人の少女が、店に入ってきた。


「噂をすれば、とは言ったものね」
「……なんて都合の良い……」


雪白が嬉しそうにそう言った。


「え!?」「あ」


店にいた俺らに気づき、少女ら――……澤北秋穂と椎名菫は、声を上げる。


俺は、ため息を一つついて、「いらっしゃいませ」と機械的に言った。





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