02
「あの、俺、何かしましたか」
この三人が、揃っているということは……自分は何かしてしまったのだろうか、と不安にかられる。
「いえ、違うのです。この二人は特に気にしないでください」
「はあ……」
礼宮先輩のいつもの物言いに、ほっとする反面、なんの話だろうと思う。
「坂城くん、とりあえず座ったら?」
「ありがとうございます」
鮎川生徒会長にすすめられ、三人と向き合うように座る。真っ正面から見ても、三人はいつも通りだ。
礼宮先輩は眉間にシワが寄ってるし、鮎川生徒会長はへらへら笑っている。そして、藤野委員長は、涼しい顔をしていて、何を考えているか分からない。
……嫌な話じゃなければ良い。
本当にそう思った。
「坂城、あなたを呼んだのは他でもなく、次の生徒会選挙のことです」
「……生徒会選挙?」
聞き返し、首をひねる。風紀委員である俺は、生徒会には入っていない。来年も風紀委員をやるつもりだし、生徒会選挙には関係ないはずだ。準備には、各委員会とも、協力するが、段取りについては、今度の委員会で言うだろう。
礼宮先輩は、目を伏せて、言う。
――……中学から委員会での付き合いから分かる。
……礼宮先輩が、目を伏せるときは、言いづらい話だ。
「はい。実はですね……華夜が、生徒会長に立候補する、と言っているんです……」
「………」
絶句。
もう、絶句としか言いようがない。
あの人が、生徒会長……?
あの、篠塚先輩が?
あの、歩く変態が?
あの、……ファーストキス魔が!?
おぞましすぎて、顔が青ざめた。
「れ、いみ……や……先輩……鳳有高校が終わってしまいます! 想像するだけで、なんて恐ろしい……! いや、おぞましい!!
無理です無理無理っ! あの変態が生徒会長!? パワハラという名の職務乱用で、来年の一年が餌食に……! あの人に権力を持たせては……っ」
「落ち着け、坂城」
藤野委員長に諌められ、う、と言葉を詰まらせる。
「坂城、あなたの言う通りです」
「……礼宮先輩……」
礼宮先輩は、肩を落として、はあ……と重くため息をついた。
「……あの子に生徒会長をやらせては、いけない。きっと、学校崩壊が起こるでしょう。有能なくせに、生活が乱れています。しかも、私がいない。華夜が中学のときは、私がこの町にいて、目を光らせていられましたけど、私は大学のため、来年から、この町を出ます。あの子は、評定や先生の評価のため、大人しくはしているでしょう。されど、下につくあなたや一、ニ年は、ストレス発散などと言って、その、」
そこで、礼宮先輩は言葉を詰まらせる。それを、鮎川生徒会長がフォローした。
「嫌がらせをされるだろうね。主に性的な、スキンシップといわれる、お触りなんかは日常的に」
そういつも通りの顔で言い、ね、アリアちゃん? と同意を求める。
「え、ええ。そうです……」
礼宮先輩は、眉間にシワを寄せた。しかし、こちら側から見ると、ほんのりと顔が赤く染まっているのが見えた。きっと、心の中では鮎川生徒会長を罵りながらも、感謝しているのだろう。
それよりも……
「……俺の学校生活が終わった……」
終焉の鐘が頭の中で鳴っている。
今まで、篠塚先輩からされてきたことが思い出された。
性的な嫌がらせ……無理矢理キス……ハァハァと言われること、もっと罵れっと鼻息荒く、近づかれること……一度キレて叩いたら、目の色が変わり「いいぞ、もっとやれっ」と気持ち悪く言われたこと、挨拶変わりに尻や太ももを触れること……それがますます酷くなる……。
そうなったら、俺は、発狂してしまうだろう……。
ああ、ささやかな平穏よ……さらば……。
死んだ目をして、項垂れていると鮎川生徒会長が、首を振った。
「坂城くん、諦めるのは早いよ?」
「……無理です。あの人ならどんな手を使ってでも、生徒会長になるでしょう……さよなら、俺の学校生活……」
「坂城、静の話しを聞いてやれ。俺らも、奴が生徒会長になるのは死ぬほど嫌だ」
藤野委員長は、嫌悪感丸出しで言う。
それで、生徒会長にふらっ目とを向けた。
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