19
「……迷惑かけてごめんなさい……坂城さんとケーキ食べたかったです……楽しみにしてたけど、ぶち壊したのはうちです……すいませんでした……」
秋穂は、すんっと鼻をすする。泣く、と思ったが、懸命に堪えているようで涙は流れなかった。
――……俺も自己嫌悪だ。
二歳年下の奴にマジ切れして、怒鳴って……謝らせて。
何をしてるんだろう……。
この少女を前にすると、調子が狂う。
もう本当にどうしたら良いか分からなくなって、ベンチに背を預けた。
すると、トン、と手が秋穂の荷物に当たった。チャックが開いていて、だらしない……と思った時、中身が少し見えた。
「……ケーキ?」
小さめの白い、長方形のケーキの箱だった。
ひょいっとカバンの中から、その長方形の箱を取った。
「あ、ダメ!!」
秋穂はカバンごと引き寄せようとしたが、その手は空を切る。
「どうしたんだ、これ」
良く見たら、それはブルーメの箱で中に一つか二つ、ケーキが入っているようだ。
確か秋穂はタダ券は昨日までで、使えないとかいってなかったか?
秋穂は、おずおずと言う。
「あの、それ、……ったんです」
「え?」
「うちが、ケーキ作ったんです!!」
え、ともう一度手元にあったケーキの箱を見る。
「タダ券使えないって気づいて……連絡しようにももう、23時近くて……慌てて、初めてだったけど、生クリームあったから、スポンジケーキ作って……いちごないけどっ……缶詰のみかんとか桃とか使って……ショートケーキ作ったんです……箱は、ブルーメのですけど……」
「じゃあ……これは……」
「でも、走ってぐちゃぐちゃになったから……そんなの食べられませんよ……」
秋穂は、沈んだ声でそう言い、「……返して」と俺に手を出す。
「……、」
「……坂城さん?」
俺は白い箱を開けた。
中にはクリームでスポンジも見えないほど、ぐちゃぐちゃになっていた。
生クリームを人差し指で取り、ぺろっと一口舐めた。
「あ、なに、してっ」
「……あまい」
甘ったるい、そう言いながらも少し見えたスポンジ部分をひょいっとつまみ上げ、パクっと一口食べた。
「……けど美味い」
ハッと秋穂は俺を見た。
「美味しくなんて」
「美味い。――……こういうのは気持ちだろうが」
秋穂が俺のために作ってくれたんだ。
不味いなんて言うか。
嬉しさで――……胸が一杯になった。
「ありがとう、ございます……っ!」
「……ああ」
「今度はきちんと、作り、ますっ!」
「ああ。一応期待しておく」
「……は、いっ」と泣き笑いのような顔をして、秋穂はそう返事をしたのだった――……。
ショートケーキ
(なんだか懐かしい味がした)
-お ま け-
秋穂「いまさらですけど、スプーンいります?」
坂城「えっ」
秋穂「え?」
坂城「………………お前がスプーン用意してるなんてまったく思わなかった」
秋穂「まったくとか酷いうち舐めんな」
秋穂「自棄食いしてやる!」
ケーキは秋穂が美味しくいただきました(笑)
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