15
店内の空気がギクシャクとしたものに変わった。
接客していた店員の表情はひきつり、お客も体を強ばらせた。
シン、となった店内。
誰も何もいわな……
「お、お金なんて持ってませんってばっ! 青葉なめんなっ!!」
「青葉学園って言えば金持ちじゃねえか!」「違いますってば! 勘違いだっつーの」
……さすがKY……もとい馬鹿。
そう、不良は勘違いしている。
――……秋穂は制服で来たせいで狙われたのだ。
二駅先の青葉学園は、私立と思われがちだが、公立だったりする。秋穂は、たぶん一般家庭出身ぽいし(取り合えず言葉遣いからして、育ちが良いとは言えない)、金持ちも通っているらしいがそれはほんの一部。
ほとんどが、一般家庭の子供。
だが、"学園"と付くせいで勘違いされることも多い。
青葉学園は有名だし、不良が勘違いして"金蔓"というのも分かる。
……ちゃんと話を聞いてあげてくれ。もしくは話して見ろ。
馬鹿だから、コイツ。
KYなの分かっただろう?
空気読むなんて言葉知らないだろうし。
(いや、それはないか)
俺の後ろで不良に吠えた秋穂は、気丈にもキッと不良を睨むが不良に「あ゛?」と睨み返され、ビビってひょいっと俺の後ろに隠れた。
だが、俺の後ろでなおも吠える。
「あ、青葉は小等部からある、寮制を採用している学校だけど……公立なんだよっ!
学費はそんなに高くないし、小等部から入ればこっちのもん!! 頑張れば高等部まで行けるってだけだし! つーか今日、帰りの電車代とケーキ食べるお金しか持ってきてないしっ
うちの毎月のお小遣い500円だぞ!?
なめんなっ!!」
「それが俺の後ろじゃなくてちゃんと面と向かって言えたら、カッコいいんだけどな……」
しかも、ぎゅーと俺の服掴んでいる。服伸びるから止めろ。
あと、お小遣い500円って本当か……?
明らかに足りないだろ、それ。
「無理っす! こんなハイカラな頭してる集団相手に出来ません!!」
あ、本音言いやがった。
「はい、から……だと……」
「紫とか赤とかマジねえわー。そういの二次元でしかやっちゃダメなんだよ。
あと弱いものいじめ、カッコ悪い☆」
イラッ……
「☆」が果てしなくウザイ。
いま、この瞬間、店内の空気が絶対零度まで下がった。
そしてみんな思っただろう。
ナニ不良挑発してんのぉぉぉおお!!
……本当、コイツ頭、大丈夫じゃないだろう。
「てめぇ……」
ガタッと不良達が青筋を浮かべて立ち上がる。
慌てて秋穂は、俺を呼ぶ。
「あわわ! 坂城さんっ」
「そして俺を頼るのか!!」
「うちが実は〜設定とか持ってるとでも!? 特殊設定なんて皆無ですよ!? うちはうちですっ」
「そんなの分かってる! なんで挑発したぁぁああ!!」
「だって……」
「だってもこうもあるか!」
俺は、秋穂に、お前本当に馬鹿だな!! と言いながらどうするか考えていた。
さすがの俺もこの人数を相手にするのはキツい。
それにブルーメの店内で喧嘩などしたら、営業妨害で捕まる……。
どうするか……。
ハッと思い付いて、秋穂を見た。
「お前、誰とでも仲良くなれるスキルとか持ってなかったか?」
「それは一対一の場合です。ご利用をきちんとお確かめの上、またのご利用をお待ちしておりますご利用ありがとうございましたー」
「クソウザイ使えないもう二度と利用するか!!」
「うわぁーん! 坂城さんが言葉の暴力でいじめるぅぅうう!!」
「お前少しだまっとけ!! 口チャックっ!」
ああ!! コイツを頼ったのが間違いだった!
というか、口チャックなんて久しぶりに使ったぞ!?
注意が幼稚園児レベルっ!
不良がこちらを窺うようにして、口を開いた。
「三文芝居は終わりかぁ?」
「まだこれ」「口チャック」「うぇ」「しゃべるな黙れ口チャックしっ!」「……あい」
秋穂は、一度すんっと鼻をすすって黙った。
どうやら口チャックの注意は効果的のようだ。「しっ!」も付け足した方が良いようだな。もしくはふさぐか? 口。
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