17
「秋穂ちゃん、可愛いわよね。馬鹿だけど」
雪白は唐突にそう言い出した。いきなりなんだ、と思いながらも話に乗る。
「まあ、容姿は人並みなんじゃないか。頭はぱーだが」
「ふふっ……アホな子ほど可愛いっていうじゃない」
「まどろっこしい。何が言いたい?」
元々俺は気が短い方ではない。雪白の確信を突かない言い方は好きじゃなかった。
雪白は少し考えるしぐさをしたあと、意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「んー……そんな馬鹿でアホな可愛いピチピチの中学二年生秋穂ちゃんのファーストキスを坂城くんが奪っちゃった、って言ったらどうする?」
「は?」
意味が、分からなかった。
キス……?
キスって、なんだ……?
秋穂のファーストキスを奪っちゃった……?
「……嘘だろう? お前が俺を嵌めようと質の悪い冗談を……」
口がカラカラに渇いて、言えたのはこれだけだった。
しかし、雪白は否定し、ベラベラと喋る。
「嘘ならもっとマシな嘘言うわよ。まさか、ねえ? 秋穂ちゃんが転んだはずみで坂城くんを押し倒しちゃって、頭と頭がごっつんこ。ついでに唇と唇が当たっちゃったってどこの王道よ。しかも、秋穂ちゃんは覚えて無いんですって。良かったわね、坂城くん。朝義や飛羽ちゃんには見えてなくて、菫ちゃんだけが目撃したそうよ。坂城くんも覚えてないんだったら、なかったことに……」
そこで雪白の話が止まる。
俺がハッとして口元を押さえたからだ。
「まさか、キスしたこと覚えてるの?」
「――……」
沈黙は肯定と同じだ。
俺は、意識を失う前、唇に柔らかい感触を感じた……。
あれは、秋穂の唇だったのか……。
雪白は「へぇへぇへーえ」と面白そうに口の端を緩ませた。
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