14
「おい、秋穂」
「はい……?」
未だ握られたままの右手を思いっきり握った。
「いっ!」
「起きろ阿呆(あほう)」
そう言ってパッと離す。俺の方を見ていた秋穂の焦点が定まってきて……その目が俺を捕らえた時、驚きで見開かれた。
「起きたか」
「……あ、あの……」
「?」
「すいませんでしたぁぁぁああ!!」
「!?」
今度は俺が驚く番だった。秋穂は何を思ったか、床に頭を擦り付けて土下座し始めたのだった。
見事な土下座っぷり……って関心してる場合じゃない!
「秋穂、止めろ! 俺に女子中学生を土下座させる趣味は……」
「本当っっ迷惑かけてすみません!! うちあれ見た瞬間周り見えなくなって……」
「秋穂、話を」
「アレマジで勘弁……あれ見た瞬間地獄……だからその、言い訳じゃないですが、事故なんですよ……」
「あき、」
「けど、坂城さんには怪我負わせて……マジですみませんんんんん!!」
「俺の話を聞けアホォォォオオ!!」
無理して体を動かし、近くにあったプリントを丸め、秋穂を思いっきり叩く。
「いたいー……」
「お願いだから話を聞いてくれ……」
俺と秋穂のやり取りに周りは爆笑している。当人たちはいたって真面目だというのに。
「まずは、土下座を止めろ」
「でも、」
「謝られても困る」
「……っ」
キッパリとそう言った俺に、秋穂は少し傷ついたような、途方に暮れた顔をする。そんな秋穂を椅子に座らせ、諭すように言う。
「良いか、謝られても俺が怪我をした事実は変わらない。そうだろう? それに、小田切先生から聞いた。蛙が大嫌いだとな。それなら、俺はしょうがないと思う。大嫌いなものがいきなり現れたら、叫ぶし逃げる。周りが見えなくなる時だってある。今回のは事故だ。だから、気にしなくて良い」
「!」
秋穂を咎めるつもりはなかったし、事情を聞いてしょがなかった、と自分の中で消化されている。
「ひゅー言うじゃねえか坂城」
「激しくうざいです、小田切先生」
茶化してくる小田切が激しくうざい。朝義もにやにやと俺を見ている。殴りたい。
「あの、坂城さん……」
朝のテンションはどこへやら。しゅん、とした秋穂が声をかけてきた。
「あの、でも、……ごめんなさい。自己満ですけど、謝ります。すいませんでした……。次からは……み、見ても、で、出来るだけ叫ばないようにします……」
「ああ、頑張れ」
「はい!」
もう良いと言ったというのに。まあ、それで秋穂の気が済んだなら、それで良いか。
元気良く返事した秋穂を見てそう思った。
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