15
「な、なにいっ……」
「お前に惚れていると言ったんだ。馬鹿で突拍子もないお前が好きだ。迷惑上等。散々人を巻き込んで泣き言言うな」
秋穂は大きく目を見開き呆然といった表情を浮かべる。
「うそ…からかっ…」
「俺がそんな不実な野郎だと思うのか?」
「だ、って、あやめさ……とキス…ッ」
その言葉に頭が真っ白になり目を剥いて必死に捲し立てた。
「……ッはあ!?誰があんな何考えてるか分からない威張り腐ったやつとキスなんてするか!さっき迫られたから想像出来るのが最悪だ!キモチワルイ!心外だ!」
そう叫ぶと秋穂は何度も瞬きを繰り返し、空気が抜けたように笑い崩れた。
「……っあははははは!! おっかしい! 坂城さんっちょーしつれいっ!」
「悪いか!……見ろ。想像するだけで鳥肌が立った」
上着をまくって腕を見せると秋穂はさらに顔のシワを増やし笑い転げた。
「うちの……勘違い?」
「馬鹿だなお前は」
秋穂はひとしきり笑ったあと、大きく息を吐いて力を抜いた。
「はい……しみじみと思います」
苦笑いし返事をした秋穂の顔に手を伸ばす。涙の跡が残る頬を優しく撫でた。
「そんなお前が好きだと、すべてを引っくるめて付き合いたい俺は思っているのだが」
「……っ」
「返事をお前の口から聞きたい」
自惚れて良いなら……なんとなく雪白の名を秋穂の口から聞いたときから、返事は分かったようなものだった。
だが秋穂は戸惑っているようだ。雪白の仲を勘違いしたり、自分に対してネガティブな一面を見せた少女。もしかしたら、こんなことあり得ないと思っているのかもしれない。
「秋穂、」
「っさかじょっさ……!?」
俺は秋穂を抱き寄せ心臓の音を聞かせた。
「あ……」
「本気だ。逃げないで…疑わないでくれ」
情けなくも早いスピードで鼓動を打つ心臓。秋穂を抱き寄せた手は緊張で汗ばんでいるし、腹に力を入れていなければ声が震える。秋穂は身体を硬くし俺の心臓の音を聞いていた。俺の腕のなかで緩く力が抜けていく。
「……好きです、好き、坂城正紀さんが、うちは好き!付き合ってほしい!」
そして少女は意思を持った力で抱き返して喉から手が出るほど欲しかった言葉を叫ぶ。
「……ぅ…っ…なきた…い…っ」
だが、同時にまた泣き出してしまう。
「何で泣くんだ馬鹿!?」
「……ふぅ…マ、ジ…っきせ…きぃ…」
「だから泣くな馬鹿!!泣かなくて良いだろう!」
「だっ、て…りょーおも、いとか…〜〜〜〜!!」
信じられないと言って泣く秋穂。本当に涙腺壊れてるだろう。
「はいはい…もう思う存分泣け。告白したあとに散々泣くって信じられないぞ」
「うっ…ふぅ…それが…うちっ、ですもん、嫌ならフレ!ばかっ!」
「お前だから良いって言ったのにフルかアホ」
俺は緩く笑みを浮かべる。秋穂となら心の底から笑えるだろう。バカバカ言ってアホなことして笑う。それも良い――なんて。
秋穂と出会う前の俺は、そんなこと考えなかっただろう。思いもしなかった。
冗談みたいな事故のキスで出会い少女を知り惚れた。
それは偶然が折り重なった奇跡のようなもの。
奇しくも、その奇跡に感謝する。
俺が笑うと、つられて少女もうれしそうに笑った。
雲の切れ間から出たお日様が涙の跡を照らした。
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