14
「…ふ…ぅっ……ぇっぐ…ぅっえ……」
「泣くな……馬鹿…!」
「……っごめ……っな、さ……ぇっぐ…」
秋穂はあとになって車に轢かれそうになった恐怖を思い出したらしく、歩きながら泣き出した。傍目から見ると俺が泣かせているようで、居たたまれない。どこか休めるところは、探しても上手い場所が見つからない。しょうがなく、比較的静かで人通りの少ない南区まで来てしまった。北区から南区とはずいぶん歩いて来てしまった。
南区の端に朱雀神社という神社がある。地元住民がふらっと訪れる古びた神社だ。俺はほとんど来たことがなかったが、南区で人気がない場所がここしかなかった。長い階段の一部に秋穂を座らせた。
「……もう大丈夫だろうが」
「…ふ…ぅっ……は、……」
「泣くくらいなら、あんな真似するな」
泣き続ける秋穂のとなりに座り不器用なりにも、言葉を重ね慰める。だが秋穂は俺を窺い、くしゃりと顔を歪める。涙は大粒になり、滴がコンクリートにシミを作った。
「…うぅぅうう…っ……ぇぐっ……うっ、うっ、ふ…ぅ…っ」
「……なんでそんなに泣くんだ!? もう何も怖いことなんてないだろう!」
秋穂の姿がいじらしく苛立って怒鳴る。少女に泣かれることが辛い。苦しい。自分が涙を加速させていることも、苛立ちを増す原因だった。
「……か、ぇる……」
「は?」
「かえり、っます……!」
唐突に立ち上がり、駅の方へ歩きだそうとする。慌てて「待て!」と手を取る。
「なんなんだ!危険をおかしてまで俺から逃げて!?どうしてそんな真似した!俺が嫌いか?そうなのか?!」
「……っ」
自分が言った言葉に胸がギリギリと締め付けられた。頼む。何か言ってくれ。
「じぶ、んが……きらい……」
「……なぜ」
「さかじょーさんに変なことして危ないことして迷惑かけて、泣いて困らせて……そんな自分が悲しくて……嫌です」
「そんなのいまさらだろうが」
「いまさら、でも、嫌なものは嫌なんです……っ」
また涙を溢れさせる秋穂。コイツの涙腺ぶっ壊れてるんじゃないだろうな?
「お前の性格じゃ改善は望めないな」
「……で、すよね…うち…どんくさいし注意力散漫だし…っ」
「……悪い。失言だった」
皮肉混じりの冗談で笑わせようとしたが、泣いてる相手に言う言葉じゃなかった。
秋穂は普通に傷ついていた。もしかしたら、キツい言葉をへらへら笑って受け流していたが、心のなかでは傷ついていたのかもしれない。
どうして俺は、こんなに人を慰めるのが下手くそなんだ…。
放つ言葉すべてが嫌味ったらしい。秋穂を泣き止ますためにはどうすれば良い? 慰めの言葉が何も効かない。俺が持っている語彙すべてを総動員しても無理だろう。
ならば、逆を考えてみる。俺が泣いた時、秋穂は何をしてくれた? 少女は慰めの言葉ではなく、俺を励まし笑わせようと言葉を紡いだ。
それは荒業で出来はしないと思うが、俺は俺なりに秋穂へ自分の想いを伝えようと思った。
「もっ…はなし…て」
「嫌だ」
「なん…で…っ」
「聞け、秋穂」
秋穂を無理矢理自分の方へ向かせ、目を見て話し出す。秋穂の目は涙で濡れていて、混乱が見てとれた。
それでも知って欲しい。
「俺は、澤北秋穂が好きだ」
俺が、お前が嫌いだと言った自分の性格を引っくるめて好きだと。
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