坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




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「生徒会長ーデートしてー」
「ありがとう。機会があったらまた今度」
「生徒会長!軍服コスして!!」
「だが断る。コスプレなんて誰がするか」
「生徒会長!!生徒会長!!付き合ってください!」
「すまない。期待には応えられそうにない」


 どうしてなんだ。


 一歩歩くたび誰かかれかに声をかけられ前に進めない。それも女子が多い。デートしてだの、付き合ってだの、俺と居ても楽しくないぞと言いたい。それを理由にフラれて来た俺には、自分に寄ってくる女子がどうにも信じられなかった。


 それに……秋穂がいる。好きなやつが、いる。断る上で変な噂がたつとやっかいゆえ理由には出来ないが胸にそう秘め、誘いをすべて断った。


 雪白が個人的に用意した衣装を奥の方で貸し出していた。生徒たちはそれぞれ思い思いの変わった格好やドレスを着ていた。みんなお洒落を楽しんでいるようだ。


 俺が先程から探しているのは雪白だ。一言言ってやらないと気が済まない。どこに居る?と聞きまくりやっと見つけ出した。


「雪白!」
「あら、坂城くんじゃない。ごきげんよう」


 雪白は大胆にも肩を出す細身の黒ドレスを着ていた。その上から白のショールを羽織り長い髪は巻きハープアップにしている。白黒と控え目ながらも、高校生かと疑うほど大人びた姿。それを裏付けする自信たっぷりの笑顔。


「私に見惚れたかしら、坂城くん?」
「自惚れてくれるな。外面は綺麗でも内面は油断ならないお前に見惚れてたまるか」
「あら、そう」


 皮肉ったにも関わらず食いついてこない雪白を怪しむ。


「何か企んでないだろうな……?」
「さぁね……っと」
「なっ!」


 思わず怪訝な顔をしていると、強い力で手を掴まれ手短にあった部屋に無理矢理引きずられた。


「お前っ何を……っ!」
「坂城くん、しぃ」


 壁に追いやられ股の間に足を入れられた。逃げたら暗に急所を蹴れるという暗示だ。唇に雪白の長い指が押し当てられ、黙るように言われる。



 ……これは何の嫌がらせなんだ!?



「あなたって自尊心が高いわりに自己評価は低いのね」


 雪白の唇が弧を描く。


「何のはなっふぐっ」
「しぃって言ったでしょ?」


 反応したら当てられた指で下から鼻を突き上げられる。ふがふがと情けない声しか出ず、苦し紛れに雪白を強く睨んだ。


「対人関係にトラウマ有りってとこかしら。高校でも広く浅く……親しい人はあまりにいない。心のなかで"俺なんか……"って思ってるタイプ。意外と僻み屋。面倒見は良い方。倫理に反することは許せない性格……あら、全部図星?」



 雪白はスラスラと俺の性格を述べた。眉間に深いシワが寄る。だからなんだという話だが、自分の心を他人に言い当てられるのはいい気がしない。



 苦々しい。



 雪白は「ふふふ、その顔が見たかったのよね」と言って押し当てていた指で顎をなぞる。いつの間にか吐息が触れ合うほど、顔が近かった。


「坂城くんの悩ましい顔好きよ」
「……退け。お前に興味なんてない」


 嫌悪感を丸出しにし、雪白の肩を押す。


「私に何か用があったんじゃないの?」
「文句を言う気も失せた。……一つだけ、秋穂は来てるか?」
「ええ。来てるけど、菫ちゃんが人酔いしちゃって客室で横になってるの。それに付き添っているはずよ」


 そうかと頷いて、踵を返す。来ているなら携帯で呼び出せば良いだろう。雪白に迫られ吐き気がする。少女と馬鹿な話で盛り上がれば回復するだろう、なんて楽観的に考えていた。


「ふふふ、どうなるかしらね?」



 ……雪白の行動の意味を考えないまま、その部屋を出た。








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