07
「ありますよ! 普通、剥き身のいちごをバレンタインのお返しに渡しますか?!」
「奇抜で良いんじゃないか。槻川も喜ぶし」
「……どうしたんですか。常識人の坂城さんが」
平野は身を引いて訝しむ。朝義も俺が反対意見を出さないのが不思議なのか、怪訝な顔をしている。
「あ、いや……」
……というか、俺が俺自身に驚いている。朝義の意見を受け入れて「良いんじゃないか」なんて……以前の俺なら絶対言わなかった。平野の言う通り、常識的に考えて「有り得ない」ことは一刀両断してきた。
どういう心境の変化……
『坂城さんっ!』『雪だるま作りたいです!』
……あぁ。お前のせいか……。
「……ここ最近、有り得ないことを言われて、受け入れてきたせいだ」
「?」
平野は首を傾げる。気にしないでくれ、と言って肩をすくめる。
「まぁ……いちごのパックをお返しで渡すならチョコフォンデュでも一緒にやったらどうだ」
ついで、という案を言うと朝義に「なんだそれ」と言われる。この時期CMでもやっているのに知らないのか……。
「チーズフォンデュのチョコレート版ですよ。マシュマロとかフルーツをチョコレートに浸して食べるんです」
「へぇ……うまそう」
平野が嘆息して説明すると「いいな、それ」と頷く。平野はチョコフォンデュ……と呟くとにこにこと笑って提案した。
「どうせなら、みんなでホワイトディを祝いませんか? みんなで持ち寄ってプチパーティ、楽しそうです」
「お前は女子かっ!」
朝義が思わず突っ込む。確かに発想は女子っぽい。
「というか、坂城さんは秋穂ちゃんにお返しどうするんですか?」
「普通にお菓子を買うか、本でも買ってやろうかと思っていた」
お返しについてはまだ先だが、秋穂ならお菓子と本のセットでも良いと思っていた。前に借りた作家の新刊が出ると聞いたので、それを買ってやろうと思っている。
「さすが。一流さんも見習ったらどうですか?」
「うるせぇよ。コイツの場合下心有りだろ」
「……何の話だ?」
朝義の粗雑な言い分に心臓が跳ねる。分かりやすい反応はしてこなかった……はず。
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