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それにしても、と秋穂を見る。
すーすーと気持ち良さそうな顔をして寝入っている。何やってんだ、お前……。さっさっと青葉学園がある志良森に帰れば良かっただろうに……。
謝りたいってそのままなかったことにすれば、俺とお前はただ一度会った縁。俺は謝りもしなかったお前に腹を立てるかもしれないが、そんなものいつかは忘れる。
変なところが律儀というか、礼儀があるのかないのか……俺は秋穂という奴がよく分からない……。
ふと思って、というか、と小田切に聞く。
「コイツは何をあんなに大騒ぎしてたんですか」
「あー……それは俺の責任というか……」
「……何したんですか、小田切先生」
『先生』という部分に皮肉を込めて聞き返す。また何かしたんだな……。
「その子、カエルが大っ嫌いらしくてな……」
「は?」
なんでカエルの話なんて……。
「緑の小さい奴でも悲鳴をあげて大騒ぎするらしくて……そいで数日前、俺が生物室にいた大蛙逃がしちまって……」
「本当に何してるんですか? 大体そんな話聞いたこと……」
「校長とかに報告してねえもん」
「……、」
目の前にいる駄目教師に殺意がわいた。大方、責任を問われたくなかったのだろう。なんでこんな人が教師をやっているのだろう……。
小田切は罰が悪そうに頭を掻き、「で、まあ、」と続けた。
「自然に還ったと思ってたんだよ。そしたらさ、しぶとく構内に残ってたらしくて、しかも構内を地味に動いてて生徒指導室に出たってわけだ」
「……それであんな風に……」
「尋常じゃないくらい嫌いなんだそうだ。まあ、気持ち悪いもんなあ。蛙って」
俺はそんなカエルくらいで、と思ったが小田切の話を聞き、秋穂にとっては大事(おおごと)なのだ、と思った。……俺がピーマンを見るだけで吐きそうになるように。
そこでガラッと保健室の扉が開く。
「小田切ぃー坂城死んだ?」
「誰が死ぬか!!」
髪を黒に染め直した朝義が失礼なことをいいながら、入ってきた。
大体、お前を更生していないのに、死ねるか。
朝義は、俺の顔を見ると顔をしかめ、残念そうに言った。
「なんだ元気じゃねえか。……死ねば良かったのに((ボソッ」
「坂城はお前に蹴られても生きてるんだ、そうそう簡単にくたばるわけねえだろ」
……酷い言い方だが、確かに朝義の蹴りは腰にくる……。朝蹴られると数時間痛みが取れないこともあり……俺は朝義のせいで丈夫になったらしい。どんな丈夫のなりかただ……。
「あの、」
そこで、朝義の後ろに中学生二人がいるのに気づく。控えめに話しかけてきたのを「どうした?」と聞く。
するとあの菫という少女が頭を下げた。
「秋穂がすみませんでした」
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