坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  04




母に窮地を救われ、雪白の罠にはかからなかったが、姉が美味しそうにウィスキーボンボンを食べるのを見て、少し食べたかった気もする。その代わり、姉が某有名チョコレート菓子店のチョコを買ってきてくれたので良しとする。うまかった。

 

 そして、少女のバレンタインである。可愛い袋のつたなくラッピングされた物を開ける。



「お。クッキーか」


 少女がくれたものは、型抜きクッキーだった。様々な形と抹茶やココアなどプレーンも合わせて味が三種あった。贔屓目かもしれないが……チョコレートよりも、日持ちするクッキーのほうが嬉しい。大事に食える。


 ひとつ、つまんで、形がいびつで笑えた。手作り感が良い。


「……あー、分からないな……」


 つまんだものを口に入れて、ベットに寝転がった。


 うまい。


 店のものと比べたら、そんなの味の格差は歴然だろうに……俺はどっちが美味しい? と聞かれたら少女のクッキーと答えるだろう。


 俺を知っているやつが今の俺を見たら、"きもちわるい"だろう。だって、俺自身が"きもちわるい"。


 少女の行動ひとつひとつに一喜一憂して、バレンタインを貰ったら"幸せ"と思える。咀嚼するクッキーはどんなお菓子よりも甘い。


「ははは、おかしくなりそうだ」


 幸せで、でも、なんだか苦しい。俺ほど"恋"という言葉が似合わない男はいない。仕方なんて知らない。始め方なんて知らない。


 "失敗"を繰り返している俺に、告白なんて出来ようか。今を壊すのが怖い、から何も始められない。




 この気持ちの行き場はない。




「メール、するか……」


 頭を振って考えを振り払った。今の考えは、槻川にデレデレしてる朝義よりきもちわるい。吐きそうだ。吐かないが。少女に礼は言ったが、「うまかった」と言うのも礼儀。だが、いざ携帯を開くといろいろ考えてしまって書いては消しを何度も繰り返した。



 やっと満足が行くような文面が打て、秋穂にメールを送れた。




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