03
帰路に着き、自室で勉強したあと……少女のバレンタインと雪白(の執事が作った)ウィスキーボンボンをリビングのソファで食べよう……と思ったのが間違いだった。
「正紀……今年はどのくらい貰った!?」
「母さん……うるさい」
いつも仕事でいないハズの母が帰宅してきて、バレンタインのチョコを何個貰ったか聞いてくるのだ。さすがにうるさいと怒ると……
「……正紀が反抗期だ……うぅ……」
……すぐこうだ。
「どこが! 朝義に比べたら全然だろう!?」
「アレは……中2病というやつだろう? 琴子も笑っていた」
「琴子さぁぁぁん!?」
自分の息子をそんな目で見てたんですか!? あ、朝義……可哀想に……。
「で、チョコは何個貰った?」
「なんでそんなに知りたいんだ……」
「私の息子ならモテて当たり前だろう。お前はカッコいいからな」
そんなことをさも当然に、しかも笑顔で言われると……気恥ずかしい……物凄く居たたまれない。母は、俺が幼い頃に構ってやれなかったことを気に病んでいる、らしい。中学の頃……琴子さんと母が電話で話しているのを聞いたことがあった。だから、その反動でとても構う。
今も首に抱きつかれている。ちょっと離れて欲しい……。
まあ、それは良い……。
ただ、母よ、どうして今なんだ!? それでいて、なぜグレーゾーンに突っ込む!?
「以前、うちに来た子から貰ったのか?」
「黙秘権を行使する」
「よし、貰ったんだな! お前が喋りたくない=何かあっただからな」
「そうだそうだ! ソイツと朝義のとこに遊びに来た女子からもらった二つとも義理だこれでいいか!?」
最後は逆ギレ。弁護士の母に舌鋒で勝てるわけがない。俺の性格を熟知している母は、仮説を立て、「お前ならこうする」と見事に当てて見せる。……本当に嫌な母親。
「ほう。義理でもちゃんと返せよ」
「分かってる」
納得したのかやっと母が俺から離れる。……ああ、疲れた。少女のはあとで食べるとして、雪白のを食べるとしよう。小さな長方形の箱は緑色の包装紙で包装されていて、包装を解くと丸いチョコレートが二つ。……ショーウィンドウで見るチョコレートより美味しそうだ。
箱を開くと、お酒の匂いが漂う。それだけでなんだかくらくらした。……俺は、酒に弱いのかもしれない。さすがに二つ一気に食べれないな、と思って母に声をかける。
「母さん、食べるか?」
「お。母にくれるか」
母の顔が嬉しそうにほころぶ。だが、ウィスキーボンボンを見た瞬間、むっとした顔をするといきなり箱からひとつ取ってパクッと食べた。
「ちょ、いきなり……」
驚いて母を咎めようとしたが、さらに顔をしかめる。
「正紀、これは食べてはいけない」
「なぜ? 確かにウィスキーボンボンは酒が入っているが――」
「母も菓子に入ってる酒くらい少量なら許す。だが――これはかなり度数が高い。ラム酒自体も度数が高いが……それ以上。香りと味で誤魔化しているが……一流の友達は成人しているのか? 未成年だろうが酒に弱い者は酔うぞ、確実に」
――雪白は、「手が荒れるから料理はしない」と言っていたわりに……冬用の手袋をはずしてまた白い手袋をしてなかったか?
――それと、執事がアルコール要りの菓子を雪白に食べさせるか? 少量であっても……普通は発育上悪いと分かっているハズ……。
ということは……奴が自分で作って……朝義や槻川――たぶんあそこに来たはず――に食べさせるため……主に目的は「バレンタイン・リア充爆発」なんだろうが……
「……モウ一個食ベマセンカ?」
「お姉ちゃんにあげろ。やつも酒好きだ。一個くらいどうってことない。食べなくて良かったな」
……つまりはルノワールにいた連中を酔わせて何かしようと企んでいたわけで……雪白、本当に俺はお前が恐ろしい!
母の言葉で力が抜けた。
ハッピー……バレンタイン……。
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