坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  02




「……」
「……」
「……帰らねえのかよ」
「いや、帰る」


 ……沈黙がしめるルノワール。朝義に気まずそうに言われ、そう返した。少女がいなくなった今、俺はここに用はない。少女と一緒に出れば良かった、と後悔している。



カラン、


 すると、ルノワールの扉が開いた。自然とそちらに目が行き……入ってきたやつは失礼なことをいきなり言った。


「ハロー、バレンタインの負け犬ども」
「「誰が!? コイツと一緒にするな!」」


 ……朝義と声が被り、一瞬顔を見合せ、お互いすぐ顔をそらした。



くすくす。


 入ってきたやつ――あんなことを言うのは一人しかいない――雪白あやめは、そんな俺たちを見て笑う。


「アンタら、本当に仲悪いわね。突っ込みが"一緒にするな!"って爆笑もんよ」
「……なにも言えないな」
「……うるせぇ」


 俺は肩を竦め、雪白と入れ替わりに出ていこうとする。


「あら、坂城くんもう帰るの?」
「ああ。用事は済んだ」
「秋穂ちゃんにバレンタイン貰えて良かったわね」
「……」


 ピタっと足を止めた。……コイツはどこまで人のことを分かっているのか。思わず勘繰ってしまう俺も俺だが、にこりと笑う雪白が薄気味悪い。


 そして雪白は、俺が持っていたバッグに何か滑り落とした。


「そんな坂城くんにバレンタイン」
「は?」
「美嶺が作ったウィスキーボンボン。美味しいわよー」
「……普通、バレンタインはお前が作るもんじゃないのか」
「イタリアでは男性が女性にプレゼントするの。大体、料理は作れるけど手が荒れるから作りたくないの」


 さすが、お嬢様。そんな言葉を言ったら皮肉になるだろうか。いやコイツの場合、皮肉は称賛になる。お菓子に入っている酒なら大丈夫だろうし(飲酒・喫煙は20歳になってから)、素直に受け取っておくことにしよう。


「そうか。ありがたく受けとる」
「あら……ちょっと驚いたわ」
「?」
「なんでもないわよ。お返しはいらないわ。じゃあね」


 雪白は冬用の白い手袋を外しながらヒラヒラと手を振り、俺は別れを告げルノワールを出た。



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