09
秋穂は胴体を作ると言って雪の上を駆けていった。
俺は頭を作れ、とのこと。
手のひらで出来るだけ丸い雪玉を作り、雪の上に転がした。
俺が雪を踏むザクザクという音と共に、だんだん大きくなっていくそれ。
俺は手を動かしながら、ここ数ヵ月……詳しく言えば、少女と出会ったあの10月からのことを思い出していた。
そして、思考の波に溺れていく……。
――……すべてはあのしょうもない事故のキスから始まった。
キスのことを少女はまったく覚えてない。それを雪白に脅され、メールをする仲になった。
俺はなんだかんだ言いながら、少女に付き合ってきた。
少女は馬鹿でどうしようもなく、阿呆だった。いつも笑顔で明るくて素直で強そうでも、実は泣き虫なんだと思う。涙脆いのかもしれない。すぐ泣きそうになるくせに、ぐっと堪える強さ。空気を読んでるのか読んでないのか分からない言動行動。
11月のあの日、泣いて情けない姿さえ、見せた。少女のように笑えたら、最高だと思った。
この前は佑(たすく)のことで頼った。今思うとなぜ少女を頼ったのか分からない。
頼らずとも、"独り"で大丈夫だという自負はあったはずなのに。
心の隅で少女を求めているのか……?
過去で色々あったと言っても、何も言わず笑顔で受け止めてくれるような気がしているから?
他人に甘えるなんて……他人という"特定の誰か"を求めるなんて、今更。
一度失敗して泥沼に陥ったのに、傷つくのを恐れてもう他人なんて嫌だと投げ出したのに、誰かと繋がろうとする浅ましい自分。
他人にお節介を焼くのは、そのせいで。
それでも、恐くて一線を引く。
少女はその一線を何もないというように、立ち入る。
少女に対して、一線を引けなくなった。
少女は、俺に屈託なく笑顔を向け、手を引いてくれた。
それでも、恐い。少女の笑顔が、嘘ではないのに怖がっている自分がいた。
どうして、この前、少女を頼ってしまったのだろう。
『精神年齢が同じ』なんて馬鹿らしい取って付けた理由は無しに。
良く分からない、と思考を放棄して終わらせてはいけない気がする。
少女は俺の周りにいなかったタイプ。
ズカズカと他人に踏み込んでくるくせに、妙なところは心得ている。
雪だるまを作ろう、と言い出したのだって俺を気遣ったのだろう(たぶん)。
自分の気持ちが、分からない。
日常でたまに、あの時の秋穂の優しげな顔が思い出される時があった。あれはギャップで、どきっとしただけだと、結論付けた。
表情豊かな少女があんな顔も出来るのかと、驚いただけ。
……妙に言い訳くさいと自分でも思う。
はぁ、と思考に疲れてため息をついていると、「ちょっと坂城さん!」と秋穂の尖った声が後ろから聞こえた。
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