10
少女が菫、というらしい。ならば聞かねばなるまい。
なぜ、鳳有高校に許可も無く立ち入ったのか。
そう口を開こうとした時――……
「い、いやぁぁぁあああああああ――――――――――――――――!!
こ、こここここ……こっちくんなぁぁぁあああああああ!!!!」
「「!?」」
ビリリッ!!
一瞬、窓が割れるかと思うほど大絶叫が廊下に響き渡った。
その場にいた俺、朝義、菫という少女、飛羽という少女が、思わず耳をふさいだ。
「な、なんだ……?」
「み、耳が……」
キーン……と耳鳴りがする……。
――……だから、反応が遅れてしまったのかもしれない。
「だ、も、うわぁぁぁぁぁ――――ん!! おうち帰るぅぅぅぅうううう!! やだもう死にたい助けてうわぁぁぁぁあああああああ……」
――……そう絶叫しながら生徒指導室を勢いよく飛び出し、全速力でこっちに走ってきた秋穂に驚き、体が固まった。
人間、突然のことには反応出来ないもの……。
それはスローモーションのようだった。生徒指導室からここまで10mあるかないか。俺が秋穂を認識したのは3mにも迫った時で……秋穂はなぜか泣いていてぎゅうっと目を閉じていた。
そう、秋穂は俺が見えていない……のに、俺に向かってくる。
朝義の坂城っ! という焦った声が聞こえたが俺は避けれなかった……。
ドスンッ!
「ごふっ……」
体全体に物凄い痛みが走った。特に胸と肩と背中。胸に当たったのは、秋穂の頭で……体が吹っ飛んだあと、床に背中を打ち……トドメの一発。
「!」
――……秋穂は朝義の焦った声が聞こえていたらしく、目を開けて自分の目の前に誰がいるか知ったらしい。ギリギリのところで止まろうとした。……が、慣性の法則と秋穂のドジさ加減は半端なかった。
それは、もう。
悪魔の悪戯というような所業。
「さかじょさ、うわぁぁぁぁぁ!!」
――……コイツ、自分の足にひっかかって転びやがった。
つまり……体が一度宙に浮いたわけで。
その行き先は俺の体の上……。
秋穂の全体重……50キロは重いかもしれないが、キリがいいので50キロぐらいとする。
それに秋穂の全速力、5秒くらいか。そして宙に浮いた状態……重力も合わせると……俺の体にかかる負担(重さ)は?
「……250kg……ぐはっ……」
悪魔よ……こんなところで悪戯する必要があるのかぁぁぁあああああああ!?!!
最後に俺と秋穂の頭がゴンッとぶつかり、なんだか柔らかい感触が口に当たったような気がしたが、そんなことを考える暇も無く俺は気を失った。
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