09
「あ、ヤバッ!」
「……どうした?」
教室を出て廊下を歩いている数秒、秋穂がなにかを思い出したように立ち止まった。
「……さっきの教室に携帯忘れてきちゃいました……」
「……早く取ってこい」
「すいませんっ! いってきます!」
秋穂はそう謝るとダッシュで携帯を取りに行こうとする。俺はそれを「廊下は走るな!」と止め、「待っててやるからゆっくり行ってこい」と努めて優しく言った。
「はーい……。待っててくださいね」
「分かったから行ってこい」
秋穂はそう念を押して、駆け足で教室に向かった。
**
「いた、坂城!」
「朝義、」
さっきいた生徒指導室とは逆側の階段から顔を見せたのは、朝義だった。――……朝と同じ金髪……あとで染め直せと言わなければ。
それよりも、朝義の後ろに見知らぬ顔が二つ……。
「こんにちは」「どうも」
「ああ、どうも……」
挨拶をされたので返したが、二人の女子生徒は秋穂と同じ制服を着ていた。
一人は、ふんわりとした色素の薄い髪。長さはセミロングくらいだろうか……。目の色は焦げ茶色で、目はくりくりとしていて大きい。可愛らしい少女、という印象を受ける。
もう一人は、黒髪短髪……朝義より短い。それに黒目。顔立ちは少女だが、目がキリッとしていて凛々しい。髪の短さとあいまって、ボーイッシュ、という言葉が浮かぶ。――……神人ほどではないが。
二人とも小柄で、背は俺の肩にも満たない。朝義の肩くらい、というと朝義の小ささが分かってしまうがそのくらいだ。
朝義は苛立ちを隠さず話しかけてきた。……まあ、コイツが友好的に話しかけてきたことなどないが。
「お前、秋穂は?」
「生徒指導室に携帯を取りに行った。ところで、その二人は秋穂のお仲間か?」
「ああ……」
俺が秋穂、と口にしたところで二人がぴくっと反応した。
少女が俺を見て自己紹介をし始める。
「……私は椎名菫(しいな すみれ)です。こっちは黒崎飛羽(くろさき ひゆう)って言います」
「!」
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