坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  01



 「秋穂、お願いがある。その、助けて欲しい――……」
『へ?』


俺は今、秋穂に助けを求めている。まさかあの少女に助けを求めたなど、自分自身ですら信じられない。ただ、こんなことを頼れるのは少女しかいない……。



「せーきにいちゃんー!」



小さな手が俺の服の袖をぐいぐい引っ張った。やめろ。服が伸びる。小さな矮躯(わいく)を見た瞬間、その言葉は飲み込んだ。



これが、俺の悩みの種。



後藤祐(ごとうたくす) 五歳。



――……母に面倒を見てくれ、と頼まれた俺の幼いいとこだった。



五皿目



「だれにでんわしてんのー?」


祐は、落ち着きが無く俺の服の袖をぐいぐい引っ張って「ねえねえだれとでんわしてるの?なんででんわしてるの?ママ?ママとでんわしてるの?」と……なんでなんでと繰り返す。秋穂に事情を話し終えた電話を切り、俺はため息をついて、祐の質問に答える。


「俺の知り合いだ。祐のお母さんじゃない。ちょっと来てくれないか、って頼んでいたんだ」
「へー!ママは!ママはいつぼくのこと迎えにくるの?いま?おやつの時間?」
「祐のお母さんは夕方にならないと迎えにこない。さっきも言ったろう?」
「ふーん……夕方は五時のチャイムだ!」
「ああそうだな……」


祐は母が迎えに来る時間を確認して、嬉しそうに俺の手を握って「ママが、ぼくがいいこにしてたらケーキ買ってくれるってー!」と言う。これも三回聞いた。今は13時……。夕方まで4〜5時間ある……。


頭が痛くなってきた。


祐は、母の妹――……俺の叔母さんにあたる人の息子だ。俺から見て、祐は幼いいとこ。今日は忙しい母が休みで、久しぶりに姉妹で食事に行くからーと、家に居た俺に祐を預けて二人は悠々と食事へ。


任された方はたまったもんじゃない。


俺は、子どもがあまり好きではない。


本能で生きている子ども。小さいし、すぐ泣く、うるさいし……それはしょうがないのは分かっている。この小さな子どもが無知で何も知らないことは重々承知してる……。嫌なのは自分で……力加減を間違ってしまうと、怪我をさせそうで怖い。あと、少しキツく言っただけで泣くのも勘弁して欲しい。要は、扱いに困るのだ。


祐は俺になついているし、口数は多いが大人しい方だ。でも、5時間どう面倒を見ろと? 俺には無理だ。持たない。幼児と何を喋れば良い? 遊ぶって何をして? ダメだ。何も思い付かない。


――……そうして早々に諦め、秋穂に助けを求めたのだった。





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