06
朝義の家から追い出された俺と秋穂は、西区から駅へ続く道を歩いていた。少し眠っただけで体調は大分良くなった。明日のため、今日は早めに寝るべきだろう。
「坂城さん! もう息が白いですよ!」
「もうそんな時期か……」
秋穂は俺の隣できゃっきゃっと、息を吐いて白くなるのを楽しんでいる。
11月の終わりとなれば、もう冬だ。特に雨が降った後の20時過ぎならば、冷えるだろう。
ブルッと身を震わせたあと、重大なことに気づく。
「秋穂……お前、寮の門限とか大丈夫なのか!?」
「だいっじょーぶ! そこは電話しておきました。電車も暴風で遅れてるみたいなんで、何本目になるか分かりません、って寮の管理人さんに言いましたから」
「そ、そうか……」
あ、今は電車動いてるので大丈夫ですよーと気楽に言うコイツはしたたかなのか、図太いのか……いや、ただの馬鹿か……。
「坂城さんが心配でしたし……たまには良いじゃないですか?」
「……す、すまない。今日は、その、助かった……」
"心配だった"と言われ、自分の醜態を思い出す。カッと頬が赤くなるが、夜の暗闇で秋穂には見えないのが幸いだった。
秋穂がいなければ、こうも穏便にことが収まり、大きくならずにすんだ。……朝義に悪態をつかれたが。あのまま放置されていれば、警察か病院行きだっただろう……。
それは色々面倒で……"こころ"も落ち着かなかった。
隣にいる少女が立ち直らせてくれ、沈んでいた"こころ"を前向きに変えてくれた。
感謝しきれない思いが溢れる。
「秋穂、」
「はい?」
「お前には……感謝しきれない。迷惑かけてすまなかった。……助けてくれてありがとう」
街頭の下で立ち止まり、そう述べた。秋穂は驚いたが、すぐに笑って「お互い様ですよ〜」と言った。
「うちも前坂城さんに助けて貰ったし、見逃せませんよ、知っている人が倒れていたら」
「まあ、そうかもしれないが……」
「そうなんですよ!」
秋穂はキッパリと言い切り、これ以上の謝りの言葉やお礼の言葉をいらないと言外に言う。
そして、ガソゴソと自分のポケットやバックの中をあさり始めた。
「?」
「どこだっけな……確か……あったあった!」
探し物は見つかったようで、なぜかその見つかったものを俺に差し出す。
「これでも食べて元気出してください!」
「これは……?」
ほんのりと桜色がついた楕円型のもの。中にはクリームのようなものが挟んである。
お菓子だろうか。
「マカロンって知りません?」
「ああ。あの色とりどりの……」
思い浮かぶのはケーキ屋の隅で売られている色とりどりのマカロン。ピンクやオレンジ、青や緑に茶色や黄色等々……確か卵白を泡立てて作ったもの、と聞いたことがある。
実物を手に取るのは初めてだ。
「めちゃくちゃ甘いんで疲れてる坂城さんにはぴったりじゃないですか?」
「ふーん……甘いのか、これ」
食べるのも初めてで――……封を切って思いきって食べてみる。
「……うあ……あま……」
その甘さに思わず顔をしかめ、口元をおさえた。ダイレクトに砂糖の味がした気がする。砂糖菓子のような……クリームも甘くて口の中が甘ったるくて気持ち悪い……。
その俺の様子に秋穂は「やっぱ甘過ぎですよねー」とケラケラ笑いながら言う。
「おい、分かっててくれたのか!」
「では、駅なので」
怒鳴る俺に秋穂はいたずらっ子のようにべーっと舌を出して、駅のホームへ小走りで行こうとする。
「おい、秋穂!」
「またメールしますっ」
秋穂はひゃあ〜と嘘臭く慌てながら、どこか嬉しそうに走り去った。
マカロン
(さかじょーさんが
元気出て良かった!)
(アイツは……もう、ばかが)
prev|
next
しおりを挟む