04
「――……眠れないんだ」
「……、」
ひとしきり二人で泣いたあと、訥々と俺は秋穂に"夢"のことを話し出した。
なぜかは分からない。たぶん、ただ、誰かに気持ちを聞いて欲しいだけなのかもしれない。秋穂はいつもの調子とは違って、俺の話を黙って聞いていた。
「昔、いろいろあって……夢に全部出てくるんだ。何か言われたことやされたこと覚えていること全部……精神的に疲れていると、ほんと……眠れない。夢が怖い」
生徒会長になってから、幾度かその夢を見ていた。たぶん、自分が思っている以上に不安で、プレッシャーを感じていたのだろう。
そして、消したい過去を思い出すような……小田真姫との再会。
それが折り重なって、夢に現れた。眠れないせいで、体調不良が続いていた。
「……いろいろ疲れた」
こうなると誰とも関わりたくないのに、誰かと居たくなる。秋穂にこんな姿を見られたくないのに、突き放すことが出来ない。
悪いすまない、と謝ろうとした時――……ずっと黙っていた秋穂が、鼻をすすって口を開いた。
「うち、坂城さんのこと滅茶苦茶すげえ、って思ってるんです」
「は?」
いきなり何を言い出すかと思えば、俺を褒める言葉。まだぐちゃぐちゃな顔を見られたくなくて、顔は腕で隠したまま、秋穂の顔は見れない。
「イケメンだし眼鏡だし生徒会長だし聞けば学年二位、剣道部で試合成績も上々……なんだよこの人。マジすげえ! ってずっと思ってて……そんな人と知り合いでメールしてるなんてうちすげえな、って」
でも、と秋穂は一呼吸置いて言う。
「今日は、馬鹿なんだなあ、って思いました」
「はあ!?」
それは聞き捨てならない。ガバッと身体を起こして秋穂を見る。いきなり起きたせいでフラッと頭がクラクラしたがそんなのどうでも良い。バカに"馬鹿"などと言われたくない。
「誰が馬鹿なんだこのバカ!!」
「馬鹿じゃないですか! なんであんなとこに倒れてるんですか!? も、もう……ただの屍かと……」
「そんなわけあるか!!」
「そんなわけあるかもしれないじゃないですか! ゲーム画面の『……動かない。ただの屍のようだ』って聞こえてくるような屍っぷりでしたよ!?」
「屍っぷりってなんだ!? その、倒れたのは……」
「動かない……ただの屍のようだ……坂城さんが……ぷ……」
「自分で言った台詞に笑うのか、お前は!!」
ああもう……コイツと話すと調子が狂う。
すると秋穂がにっこりと笑った。
「落ち着きました?」
「は、」
「泣いて、人に悩み話して、少しはスッキリしました?」
「ま、まぁ……」
「悩みなんて一人で抱えるとろくでもないし、坂城さんに何があったかは分かりませけど、あんまり深く考えたって意味ないですよ? そりゃ、死にそうなほど辛いことかもしれないですけど、まあ、笑ってた方が上手くいきますって」
秋穂は、スマイルイズプライスレス! と笑う。
無茶苦茶な励まし方。ただ、秋穂らしい、と感じた。
過去なんていまさら悔やんだって戻らないし、生徒会長の件は仕方ないなんて――……そんなことはない。望まれて、その結果望んでなった。
悩むことだって精神的に病むことだって幾度とあるだろう――……現にいまだってそうだ。くよくよして秋穂にみっともないところを見せた。
でも――……悩んでも、今のコイツみたいに笑えたら、良いと思う。
どこまでもポジティブなコイツに憧れる。確かに、無茶苦茶だが、俺には効いた。
すべてが馬鹿らしく思えて、秋穂の言葉に頷いていて――……いつの間にか笑っていた。
「……まあ、そうだな」
「そうですよー! 元気出してくださいっ」
「ああ」
……さざなみ立っていた心が落ち着いていく。
秋穂と話すうちに、ゆっくりと自分を取り戻していくようだった。
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