01*
<?><鳩羽駅・駅前>
中学生くらいの少女が、オレンジの傘をさしながら支離滅裂な歌を歌っていた。
「あめあめふれふれかあさんがー このあとなんだっけ……お肌ぴちぴち? 雨がちゃぷちゃぷさんざんざん……乗り過ごしたぜクソヤロウ……」
この少女、部活で鳩羽に来て同じ部活の子と時間を忘れ遊んでいたら、電車を乗り過ごしたという馬鹿である。
大丈夫大丈夫、と言っていたいたが、まったく大丈夫じゃなかった。
同じ部活の子は、先に親と帰ってしまったし、次の電車まで一時間……ああどうしよう……と思いながら、とりあえず駅前に来ていた。
日曜日の夕方ということで、人が多いが、先の雨のせいで人はまばらだ。
少女は、駅のホームで待つのつまんないなあ……と思いながらふと、とあるベンチを見た。
「――……え」
そこには、雨だというのに人がいた。
具合が悪そうで、肌が異常に白い。
道行く人は怪しげにチラチラ見るだけで、何もしようとしない。
だが、少女は、違った。
へらへら笑っていた顔が、驚き、険しくなる。
「……っちがう、よね……?」
少女は唾を飲み込んで、人にそっと近づいた。
違う、と否定しても少女は疑念を頭から払いきれない。
――……その人を少女は、知っていた。
ただ、違う人と信じたかった。
こんなところで倒れている人じゃない。
近くまで来て性別が分かる……男だった。
高校生くらいで、眼鏡をかけて……。
疑念が確証に変わっていく――……。
「さか、じょうさ……!」
その人だと確証した時……少女――……澤北秋穂の顔が蒼白になった。
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