坂城くんと秋穂ちゃん | ナノ




  10



<鳩羽駅・駅前>


俺と小田は、青ざめ後ろでぎゃあぎゃあ言ってる翔を置いて、勢いでゲームセンターを出てきてしまった。


「他のやつらは……」
「実はさ、翔がトイレ行くって言った時に何かあるなって思って……みんなに打ち明けたの」
「!?」


驚いた。それは、どれほど勇気がいることか……。嫌われるかもしれない、もう友達ではいられないかもしれない……苦渋の決断だっただろう。


「大丈夫……だったか?」


心配そうに言うと、小田は笑顔を見せた。


「うん。みんな、翔の浮気癖っていうか……女癖悪いの知ってたみたいで……さすがにわたしが言い寄られてるって知ったときは呆れてた」


ふふ……と笑う小田を見て安心した。あの四人はきちんと小田を見ていた。これからも、小田を仲間の輪に入れてくれるだろう。


「美春が無表情でさぁ……やっぱ穏和な子ほど怒ると恐い。話は付けたし、たぶん今頃翔は美春に説教くらってるんじゃんない?」
「……南無三」


ボソッとそう言うと、小田は声を上げて笑った。



小田は次の電車で帰ると言った。


「坂城、ごめんね。ありがとう」
「いや、かまない。約束だからな」


当たり前のようにそう言うと、はぁ……と深いため息をつかれた。


「む。失礼だな……」
「その台詞、きっとわたしじゃなくても誰にだって言うでしょ? 女の子は好きな人の特別になりたいもんなの」
「あ――……うん……返事は二年前と同じだ。すまない」


わかってないなあ……と言われ慌ててそう言った。


「謝らない謝らない。まー……メアド交換してくれたら許すけど?」


ふふっと笑う小田に「策士だな」と返す。


「さぁ? まあ、翔とか変な奴がいたら助けてくれると嬉しいな、とか」
「ああ、必ず助ける」


小田は冗談めかしてそう言ったのだろうが、俺は至極真っ当に言う。



「中二の時、お前と居れて楽しかったんだ。友人として小田が好きだった。困ったことがあったら、言って欲しい。頼りないかもしれないが、助力する」


あの時、穏やかな日々を過ごせたのは小田のお陰だし、それなりに好意は抱いていた。


だから、約束の"お願い"で「助けて欲しい」と言われたのが嬉しかった。あんなひどい振り方をしたのに、俺を頼ってくれた。


男として嬉しいだろう? どんな形だろうが、頼ってくれたのは。


小田は驚き目を見開いたが、すぐにふんわりと笑った。


「――……坂城に惚れて良かった」
「え?」


電車が来た音で良く聞こえなかった。聞き返すが、彼女は「なんでもないよ。メアドは良いや。電車来たから行く」と答えた。


彼女は、俺にクルッと背を向け、駅のホームに向かう。


思わず、呼び止めてしまう。


「あ、小田……」
「坂城、またね」


だが、彼女は後ろ手に手を振り、"バイバイ"をした。


「ああ――……またな」


二年前彼女に言えなかった言葉。


俺は、小田が人の雑踏に消えるまで、ずっと見送っていた――……。





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