07
(だから何だって話だがな。朝義は槻川達と仲良くなったみたいだし、俺はいつも通りだ。ただ……)
「おかしいって『可笑しい』って書くんですよね。人を馬鹿にしてるー」
(……久しぶりだ。こうして誰かと中身の無い会話をするなんて。楽しいと思える気持ちが俺にもまだあったか)
久しぶり、というよりしたことが無かったかもしれない。誰かの輪の中には入れなかった。それとなく休み時間はテレビでやっていたことを話すだけだ。
(……、何も考えずに話すのは楽しい。何も……人間関係やら先輩後輩の上下関係……何も考えなくて良いことはこんなに楽なのか)
どこか自分は疲れていたのかもしれない。
毎日毎日朝義を追いかけ、得をしないようなことばかり。
それでも自分の性格を思うと止めるわけにはいかない。
一種の意地だ。
(そんなのは矜持、プライドでしか無いがな……)
少女とつまらない、中身の無い会話をしてるとそんなものくだらないと感じる。
反応しない俺を不思議に思ったのか、秋穂が俺を呼ぶ。
「坂城さーん? もしかして『おかしい』の説明あってません?」
「はぁ……」
的外れ過ぎる予想に思わずため息をついた。何をくだらないことを考えていたのだろうか、という意味だったが秋穂は別の意味と勘違いした。
「人の顔見てため息!? え、うちまたなんかしあ……!? 舌かんじゃ……」
どうやら舌を噛んだらしい。
秋穂は顔をしかめ、ひあひー! と騒ぐ。
「ぶっ……本当馬鹿だな、お前」
落ち着け、と言おうとしたがその前に秋穂がピタっと静止する。
そして顔を輝かせた。
「?」
怪訝な顔をして秋穂を見る。すると秋穂はポツリ、と言う。
「……坂城さんが、笑った……
坂城さんが笑った!!」
「ッッ!!」
秋穂は嬉しそうにそう言った。
あははっ!と。
何がそんなに嬉しいか分からない。ただ、少女が俺が笑ったことで喜んでいることは分かった。
なぜか顔が赤くなる。
「イケメンが笑うとやっぱカッコいいですね! 良いもん見た〜」
にこにこと首をふらふらと横に振りながら、満足気に言う。
「う、うるさい……! 何がそんなに嬉しい?!」
柄にも無く照れているらしい。気持ち悪い。だが、顔が赤くなるのが止められない。
少々焦っているせいか、早口でそんなことを言った。
「坂城さんが笑ったから。
だから嬉しい」
秋穂は恥もてらいも無く素直にそう言った。
俺は、
「恥ずかしい奴、だ……」
漫画にでてくるような照れを隠す言葉しか出てこなかった……。
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