それから――警察の事情聴取や一メートル級のクレーターにテレビカメラが来てごまかすのに苦労した結果――夕陽が鮮やかに映える時間になった。因みに、千百合と真也が気になっていた小虎と沙弥が付き合っている疑惑だが「は? 俺と田村が付き合っているって?」「そりゃ、小虎は良い男だけど。今日はたまたま会って、近況とか話してただけ」とあっさり否定された。
「勘違い、だったみたいね」
「うん……ああ…本当、良かった……」
千百合と真也がほっと安堵の息を吐く。そんな二人を見て小虎と沙弥は「何勘違いしてたんだ?」と首をひねった。
「あ……真也くん……ありがとう」
「え?」
ふと気づいたように千百合がお礼を言う。
「助けてくれたでしょう。お礼、言ってなかったから……」
「あ、ああ……そんなのいいのに……」
「よくない。すっごくかっこよかった…」
真也は言われた意味が分からず、え? と聞き返す。
「アニメ見てるみたいだった」
「え……きみ、わるいとか……」
普段人を超越している姉のせいで避けられている真也はおずおずとそう言うが、千百合は目をしばたく。
「ううん、かっこよかったけど?」
「うえぇぇぇ…!?」
小虎は呆れながら大真面目に言う千百合をフォローするように「高坂はこういうやつなんだよ」と言う。
「面白い子だなあ、千百合ちゃんって。可愛いし」
沙弥はそう言って「あ、私、田村沙弥。平城嫌いにならないでくれてありがとう。コイツ、誤解されやすいけど良い奴だからさー」とにこっと笑った。……これが人たらしの笑みである。千百合はじっと沙弥を見て、口を開いた。
「……田村さん、」
「沙弥でいいよ」
「さや、ちゃんは」
「うん?」
「そんなに男前で……本当に女の子?」
千百合の神妙な顔で問われた疑問に、沙弥はぶふっ!と吹き出し「おっ、女だよ……!これから一緒に風呂でも行く!?」と怒りを通り越して大笑いしていた。
……その脇で真也は「っ良い奴!田村さんに誉められた!」と一人震えながら、感極まっていた。
ブーブー!
「ショウから電話?」
小虎は「失礼なこと言ってごめんなさい……だってかっこいいんだもの」神妙な顔を続ける千百合と「っん…はら、よじれ…る」大笑いを続ける沙弥と「田村さんにほめられた……」未だに感極まっている真也を放って、電話に出た。
「なん…『ことらー!スズとハルキが喧嘩してるー!!助けて!!!』……っは!?」
突然、電話口でそう訴えられ小虎は目を丸くする。ショウは捲し立てるように、とにかく早くきてー!と言い、電話は切れた。
「ハルキ……早乙女?」
「あー……スズちゃんが何か言ったんだろうな」
「山月くん、車なら出すわよ」
困りきった顔で振り向くと、三人は事情が分かった顔で小虎を見ていた。
「あー、悪い。付き合ってくれ」
小虎は頭をかきながら、頼み込んだ。
また面倒事を背負こんで、と呆れるものの……誰も首を振る者はそこに居ず――しっかりと頷いて、ある意味騒ぎに荷担する。
「どうやって止めるか…」
「小虎が割って入ればオッケーじゃない?」
「二人は口悪いから何言われるか……」
「これが終わったら、みんなで何か食べにいきましょう」
――彼らの『今日』はまだ終わらない。
この後――ただの激しい口喧嘩に柄の悪い不良たちが絡み、さらにややこしくなることを……四人は、または七人は知らない。
End!
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