私のハートは紅にときめく | ナノ


  ≫05




「わ、私……一人だけ!?」
「そうよ。藍、どうするの?」



藍はあやめにニヨニヨ笑いながら告げられた事実に愕然とする。あの日から七日……今日がタイムリミットなのに、藍は一流の頬にキス出来てなかった。そして、残るのは自分一人だと聞かされ焦る。



「あ、秋穂ちゃんもしたのっ?」
「坂城くんが機嫌良く「くだらないがまあ、何も言わん」って言ってきたの。ニヤつく坂城くんなんて、気持ち悪かったのよ?」
「リズちゃんは……っ」
「思い切ってしてたわね。この目で確認したわ。フロウドが動揺して固まった姿、見る?」
「……いい……」



藍は肩を落として「どうしよう……」と呟く。チャンスがなかったわけではない。一流は、藍の前だと気が緩む。隙はあった。藍になかったのは、行動する勇気だ。



「ちゅっとやれば良いのよ、ちゅっと」
「……あのね、あやめ……簡単に言うけど、滅茶苦茶緊張するんだから!!」
「キスも出来ないならその先なんて夢のまた夢よ〜?」
「っ余計なお世話!!」



あやめは、かぁぁ……と頬を染めた藍の頬をつつく。「あーもう……藍、可愛い」と満面の笑みだ。



「むううう……」
「そんなにむくれないの」
「誰のせいだと思ってるの!?」
「わ・た・し」



いけしゃあしゃあと嘯くあやめ。藍は「〜〜っもういい。一流くん探してくる!」といきり立つ。



「あら、やる気になったの?」
「……このまま、あやめにからかわれるのやだもん」
「ふふふ、いってらっしゃい」



藍は笑顔で手を振るあやめを無視し、一流が居ると思われる屋上に向かった。





「……いた」



一流は屋上に備えてある給水塔の上で寝転がっていた。藍を横目で見るとマイペースに「よう、藍」と言う。



「よう、じゃないよ……授業またサボって……留年するよ!」
「しねーよ。いいからこい」



藍はぶっきらぼうでも優しく自分を呼ぶ一流を睨む。



「たまにイケメンにならないでよ」
「は?」
「こっちの話!」



藍は一流の方へ向かいながら毒づく。へたれなのに……意識し出した途端、何でもないことが特別に思えて気になる。一流の言葉、仕草、距離……自分に向けられる行為すべてを気にしてしまう。



「い、意外と高いね……」
「そうか?」



給水塔に上った藍はその高さにスカートの裾を握りしめる。一流は飄々としたもので、「風きもちいーんだぜ」とまで言う。



「……あのね、一流くん」
「改まってなんだよ……」



そこで藍は正座をし、一流の顔を真っ直ぐに見た。一流は藍を不思議そうに見ながら、藍の言葉を待った。



「ほっぺにキスさせてください……」
「ぶほっ!?」



一流は、ド直球に言われたことに吹き出す。



「はあ!?い、いきなりなんだよ!」
「ば、罰ゲームなの!」



 藍は慌てて事情を説明する。あやめとのゲームで負けて罰ゲームとして好きな人の頬にキスすることになったということ。他のみんなはもう済ませて自分だけだということ。今日が期限で、出来なかったらあやめのことだから何かされるということ。



「そ、そーかよ……」
「七日間ずっと一流くんの頬にキスしようとしたけど、上手くいかなくて……もういっそ事情話してやった方が楽かな、って……」



一流の頬が引きつる。手を繋ぐから発展出来ていない二人。それが悪いとは言わないが、高校生ならそろそろ先に進んでも良い頃である。



「させて……くれる?」
「そこはさり気なくやれよ……き、緊張するだろ……」



上目遣いに見られ逃げ腰になる一流。藍は「さり気なくやれないから、申告してやろうと頑張ってるんじゃないの!」と一流を睨んで言う。



「……俺が藍からやられた、って言えば済むんじゃねーの」
「あやめは鋭いから、バレるって……」
「だよ、なぁ……」



藍は困ったように頭をかく一流を見て焦れる。



「……別に一流くんは動かなくていいんだよ。わたしが勝手にやれば良いんだから」





あえて一流を突き放し、藍は自分を追い詰める。こんなふざけた罰ゲームでも、やらなきゃ終わらない。



それに今、ここでやらなければ、一流と自分の関係も進まないのではないかとすら思う。



「……動かないでね…」



羞恥なんて一瞬だ。大丈夫、出来る……と自分に言い聞かせてその場から動かない一流に迫る。身体を寄せて、背筋を伸ばし口を頬へ……。




「――待て」

「ふべっ!?」



あとちょっとで頬にキスが達成されるところだったのに、一流が藍の頬を掴んだ。力が強かったせいで、藍の顔が面白く歪む。



「ぶふっ……」
「なっ、なにするの!?一流くん?!」



その顔に一流が笑ってしまい、藍がムッとして噛みつく。



「せっ、せっかく頑張ってやろうと……」

「――やっぱ、違うだろ」

「へっ?」



頬を掴んだ手は顎に移動し上向きに持ち上げられる。





目を見開く藍と、目尻を優しく和らげた一流の、目が合う。





「……ここで、へたれてたら男じゃねーよ」





あ、という藍の呟きは空に消え、二人の影は折り重なった。

prev / next

[←main] [←top]


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -