≫04
――どうしよう。
リズは三日経っても、レンの頬にキス出来ないままだった。一つ屋根の下で暮らしていたって、逆に意識して何も出来ない。元々、付き合ってもいない。自分から行動するのだって、恥ずかしい。
――でも、やらなきゃ、あやめちゃんが怖いし……頬にキスまでしたらレンだって意識してくれるかも……。
リズはその日、放課後まで目一杯時間使いレンの頬にどうキスをするか考えに考えた。……レンがそんなリズを不思議そうに見ていたのを知らずに……。
――放課後。
リズとレンは図書館に居た。こじんまりとした図書館は人気がない。リズとレン、そして暇だからと二人についてきたあやめしか居なかった。この図書館、蔵書は少ないが日本の古本が集まっているのをレンは気に入っていた。
レンはあやめが奥に行ったのを見計らってリズに聞いた。
『……リズ、何か悩み事でもあるのか?』
『へ?!』
絶賛、あやめの無茶振りに悩んでいたリズは動揺した。目をさ迷わせて『な、悩み事なんてないけど……?』とバレバレの言い訳をする。
それを聞いて、レンはリズの目を見ながら『お前、三日前くらいからなんかおかしいぞ』と疑い始める。
『な、なんでもないってば!』
『やけに俺の顔見てるし』
『そっ、それは!』
ば、バレてた!と慌てて焦る。なんで今回に限って……いつもわたしの視線なんか気にしないくせに!と胸のなかでレンを罵り、咄嗟に『れ、レンの肌きれーだなーって思ってただけ!』と見るたび思っていたことを言う。
『……本当にそれだけか?』
『本当にそれだけ!大したことじゃないから気にしないで良いって!』
リズは苦笑いしながらレンの追求を追い払う。レンは不服そうに引き下がる。
『……何かあったら言えよ』
『何もないよっ』
――何かってレンのことだから!レンのバカ!!
笑顔で返事をして虚しくなる。思い人は目の前に居るのに、自分を気にしてくれるのに、自分の想いには気づいてくれない。……気づかれたら気づかれたらで大変なことになると思うが。
でも、一番嫌なのは思い人を前に行動出来ない自分が……情けなくて腹が立つ。
想いを伝えることも出来ない。気づかせることも出来ない。
リズは掌をぎゅっと握って、横を向いていたレンの袖を引っ張った。
『ねぇレン、』
『なに、リ……』
レンの振り向きざまに、背伸びをして頬にキスをした。
一秒にも満たない時間が、永遠に感じられた。
『そっ、そういうことだから――!!』
リズはレンに触れた瞬間、全身に羞恥が走りぱっと身を翻して図書館の外へ逃げた。
「……は……?」
取り残されたレンは、リズにキスされた頬を抑え呆然と立ち尽くした。――一瞬感じた柔らかな感触。鼻をかすめたリズの香り。それはすべて現実で、まやかしではないと記憶が語る。
レンは訳が分からず動揺し自分の頬を抓ってみる。
「……いたい……え…は……?」
痛いと確認し……夢ではないことは分かったようだった。……レンはしばらく、そこから動けなかった。
そしてあやめは……。
「リズちゃんミッション成功ね……ふふふ……フロウドの動揺顔GET〜」
本棚の影からほくそ笑んだ。
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