02
簡単に準備を済ませぺったんこの鞄を持った旭はリビングに行く。

「あしゃひ、ねふたいふろほ!(旭、ネクタイしろよ!)」
きあらはバタバタと歯磨きをしながら、旭に言う。いつもの赤パーカーに、白ブレザーを着た旭はこてん、と首を傾げて「なんでー」と兄に聞く。

「今日は服装頭髪検査だろ。校門超えるまではネクタイしないと」
「やだ。首しまるし……」

堅苦しいネクタイを嫌う旭は、いつもネクタイをしない。というより、ネクタイが締められない。

「やらないから」

簡単に言ってそっぽを向く。
きあらは歯磨きを終えて勝手に旭の部屋にはいり、ピカピカの赤ネクタイを手にしリビングの旭に「やってやるから、ほら。校門出たら外していいし」と言い、無理やり旭のパーカーのジッパーを下ろしてシャツの襟を立て、ネクタイを締め始める。

「ぐえっ……キツい!」
「はいはい、我慢する」

きあらは器用なもので、手早くネクタイを締めて形を整えた。それを見ていた旭は「兄貴の手ってすご…」と呟く。

「すごくない。練習すれば誰でも出来る」
「兄貴の手って、料理も作れてネクタイも結べてすごいよ。あんなに美味しいもの作れたり、器用に俺のネクタイ結ぶんだもん」
「っ」

手放しで褒められ、きあらの顔が赤く染まる。思わず恥ずかしさから手に持っていた旭のネクタイを下に引く。

「兄貴しまっ、しまって、る……」
「あ、あんまり褒めんなバカ!」

パッと旭のネクタイを離し、音を立てて立ち上がり一人玄関に向かう。

「…あ、兄貴…鞄忘れてるーよー」

きあらはピタ、と足を止める。見ている方が可哀想になるくらい真っ赤にした彼は、褒められることに慣れていないのだろう。はぁ、はぁ、と荒い深呼吸を繰り返し自分を落ち着かせた。

「兄貴、過剰すぎない?」
「慣れてないんだよ!?」

まだ顔の熱がひかない彼は弟を睨みつける。

「本当のこと言っただけなのに」
「…毎日、ちゃんといただきますとごちそうさま聞いてるの思い出したら恥ずかしくなったんだよ!うまいうまいって食ってくれるんだから……」

旭の目が見開き、笑いをこぼす。

「そりゃ、美味しいから」
「はいはい、ごちそうさま!!毎日嬉しいです!」

ヤケクソに言い、二人で靴を履いて「いってきます」と言って家を出る。

「兄貴、弁当になに入ってるー?」
「昼の楽しみにとっておけって」

――いつものように、兄弟は会話を重ねながら学校へ向かった。



―END―


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