24-kiara | ナノ

Diary


 篠宗

「受け取ってくれ、先輩!私からの愛のプレゼントだ」
「お…バレンタインか」
花野先輩に両手を添えてハートの包みを渡す。今日が何の日か先輩も分かっているはずだ。――聖バレンタイン。異性にチョコを贈る日だ。
二人で過ごす初めてのバレンタインだ。たぶん、世間一般の男女はこうやってプレゼントするはずだと、自分なりに常識を調べて先輩にチョコを作った。
「中、開けていいか?」
受け取った先輩はすぐに包みを外して、中を見る。包みの中にはお世辞にも美味いとは言えないトリュフが入っている。
「おお……手作りか」
「形が上手く出来なかったんだが……」
「良い。美味しそうだ」
先輩は口元をほころばせながら一つつまんで食べる。
「うまい」
「本当か!」
「ああ、頑張ったなー」
私は先輩に褒められて喜ぶ。先輩に喜んでもらえたなら本望だ。ふふふっと笑いながら喜んでもらえて良かったと思う。
だがすぐに先輩は、はっと私があげたチョコを見て顔を青くする。
「どうした先輩……」
「篠塚!これに媚薬とか入れてないよな!?」
「なっ……入れてない!焦ったように聞かないでくれ!!」
「ああ…悪い。お前ならやるかと……食べてから気づいた」
失礼な!と思うが、自分にそっち方面に信用がないのは重々承知だ。ただ、純粋な気持ちで作ったのにそういわれると悲しい。だから「……今になって入れれば良かったと後悔している」と低い声で言った。
「媚薬の味を誤魔化すにはチョコが一番適しているからなあ……?」
「やめてくれ。俺が悪かった。めっちゃうまいから!」
「大体、薬を使わずとも私が先輩を気持ち良くさせてやるというのに……!」
「結局そっちかお前……」
「当たり前だ。確かに先輩が理性を失って欲を求める姿は見たいが、薬は反動がデカいし、後々副作用で吐き気がする」
「は?」
先輩がきょとんとして私を見る。どうしてそんな顔をするのか分からない。
「お前……使ったことあるのか」
「ああ、使われたことがある」
「使われた……?」
そう。あれは荒れた性生活の時、セフレの一人に強引にやるのが好きな一人が居て無理やり薬を飲まされて犯された。私はMだし快楽には弱い。散々喘がされて鳴いた記憶がある。激しいのは好きだが、ああいった嗜好は一人よがりで好きではない――記憶をさかのぼりながら先輩に言う。
「あれは辛いぞ、先輩……私は性欲が強いからな、散々犯されてやっと抜けた。もしかしたら薬が強かったのかもしれないが」
昔を思い出しながら、喉がかわいて席を立つ。先輩が妙に黙って聞いていたが、いつも黙って私の性欲云々の話をスルーしてくれているしそんなに気にしなかった。
だから――先輩が静かに怒っていることにまったく気づかなかった。
水道をひねり、水を出す。ザーッと水が流れてコップに水を入れながら話を続ける。
「先輩が媚薬を使いたいならソイツに連絡を取って薬をもら……もごっ!!?」
急に後ろから口をふさがれ、流しにコップを落としてしまう。
後ろから長い腕が伸びて蛇口がキュッと音を立てて閉まる。先輩が「篠塚、お前はもう少し人の気持ちを分かれ」と言う。
「もがもご!?」
「俺がお前を抱いた昔の男の話なんてされて嬉しいと思うのか?」
先輩が怒っていることだけはひしひしと感じる。なんで怒っているのかは、よく分からない。私はただ、薬を使うとすごく辛いと言っただけなのに。
「……分かってないみたいだな」
「もごもが……」
「俺が昔付き合った女の方がお前より料理が上手で気遣いも出来たなあって言ったらどう思う?」
「!!?」
グサッ、とその言葉は胸に刺さった。私は料理が出来ないし、欲に忠実で物を深く考えず発言するから……気遣いなんて出来ない。
黙った先輩を見上げる。たぶん、私は少し涙目だ。大好きな先輩にそんな比べられるようなことを言われたら私だって傷つく。これは精神的にいじめるプレイだと思えばいいのか? でもそんなことを思っても、ちっとも刺さった言葉は埋まらない。それどころかじくじくと痛み出す。
「な、嫌だろ」
ぱっと先輩は私の口から手を離して言う。私は慌てて先輩に縋り付き「い、嫌…だ……先輩…嫌いにならないでくれ!」と懇願する。先輩は私を抱きしめて「悪かったよ。でも、お前が昔の男の話をするのが嫌だったんだ」と肩を竦める。
「だ、だって……ソイツはセフレだし」
「セフレだろうがなんだろうが自分の彼女が別の誰かに色々されただの聞かされるのは嫌だ。それとも、今から昔付き合った女の良いところ話すか?」
「や、やめてくれ!!」
よく分かった。私が話してきたことは、先輩が付き合った昔の相手を楽しく話されることなんだと。冷たくされるのは好きなのに、先輩が好きだから……自分以外に目を向けて欲しくないと思う。きゅっと唇を噛むと、頭をなでられた。
「やらないから安心しろ」
「……私も言わないようにする」
「そうしてくれ。胸糞悪い」
本当にその通りだ。私はもう少し言動に気をつけた方がいい。少し自己嫌悪に浸っていると、先輩が身体を離し少しかがんで私の耳元に口元を寄せる。なんだろう?と怪訝な顔し、耳を立てる。
「――……」
「!!?」
囁かれた言葉は予想外で、私はぶわっと顔を赤くさせた。……ハッキリ言って私は照れることがあまりない。賞賛に対しては大真面目に返し、先輩に好きだといわれても嬉しそうに返してきた。そこに照れは混じらない。
だから先輩は気づいていない。そのふっと笑って言った言葉がどれほど私に打撃を与えているか。
「あばばばばっば……くぁwせdfrgtyふじこlp;@:」
「篠塚!?」
そして私は、言葉の咀嚼に脳の処理が限界を超え頭からふしゅーっと湯気を出して倒れた。
先輩が慌てて抱き留めたがそこから記憶がない。

でも先輩。

『俺は付き合った女の中でもお前に一番惚れてる』


私の方があなたにべた惚れだ。



とんだバレンタインだが、私の方が愛のプレゼントをもらってしまった。




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