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▼ いつかその時は

「あかーしくん!!」

休日返上での部活を終えて正門へ向かっていると、自分の名前を呼ぶ声と共に大きく手を振る小さな姿が目に飛び込んでくる。俺が先輩を捉えたのが分かったのか、パタパタと駆け寄ってくるミョウジ先輩。

「どうしたんですか、今日は日曜日ですよ」

冬至に向かうこの時期はそれでなくても日が落ちるのが早いのに、春高間近の俺たちの部活終了後のこの時間なんて真っ暗でとても寒い。その証拠に口元まで覆われているマフラーから出ている鼻先は赤くなっていた。そんな中、どうして先輩が学校に居るのか。

「君を待ってた!」
「え……」

ストレートな物言いに思わず間抜けな声が漏れる。そんな俺を気にすることなく、先輩はビシッとその人差し指を俺に向けた。それ、人にするのは失礼ですからあまり感心しませんよ。あぁでも先輩の方が立場は上だしいいのか。

「今日誕生日だったんでしょ!」

見当違いなことを考える俺を余所にそう言う先輩の表情は少しむくれ顔だ。その顔はなんと言うかとても、可愛い。

「お昼に光太郎が教えてくれたんだけどね、そう言うのは早く教えてくれないと困るよね。あかーしくんの欲しいものとかリサーチする時間ないんだから!だからね、直接聞こうと思って」

来ちゃった。
なるほど、木兎さんが昼からなにか言いたそうにソワソワしてたのも、片付けは俺や木葉たちでやるから!と俺を早めに体育館から追い出したのはそのせいか。
それにしても誕生日祝いなんて明日でも良かっただろうに、休日の学校まで来てしまう先輩の行動力には驚かされる。

「ね、欲しいものなにかある?」

これが俺じゃなくて他の人、例えば木葉さんや猿杙さんたちでも貴女はここに来ていましたか?それとも──
そんな都合のいい考えが一瞬頭を過ぎったけれど、そんなの考える必要はない。ミョウジ先輩が俺の誕生日を祝うためにここまで来てくれた。その事実だけで十分なのだから。

「欲しいもの、ですか」
「うん、私に買えるものか出来る範囲にはなっちゃうけどね」
「俺の、」

無意識に口をついて出そうになった言葉に気付いてその先はぐっと飲み込んだ。これを伝えるのは今じゃない。誕生日プレゼントなんて形ではなく伝えなくてはいけないこと。

「そうですね、部活頑張って腹が減ったので帰りにおにぎりが食べたいです。近くにテイクアウト専門店が出来たらしいので」

身長差から見上げる形で俺の言葉の続きを待つ先輩に小さく笑って答えを出せば、少し驚いた表情をした彼女はくしゃりと破顔した。

「まっかせて!十個でも買ってあげちゃうんだから!」
「それは多いので二つくらいでいいですよ」
「真面目だ!」

そうと決まれば早く行こ!
そう言って一足先に歩き出した先輩が少し先で振り返る。ふわりと翻った髪に続くようにしてにマフラーの端とコートの下に覗くスカートが揺れた。

「あかーしくん、お誕生日おめでとう」

いつもの少し舌足らずな呼び方に続いて言われた祝いの言葉。それは今日一日、家族や友人、部活仲間に言われたどれよりも暖かくて幸せな響きを宿していた。




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