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▼ 構って欲しい

カチャカチャカチャ

静かな部屋にゲームのボタンを押す音だけが響く。
その音はこの部屋の主である孤爪研磨の手元から止まることなく発されていて、あんなに激しく動かして壊れないのかなと無駄にゲーム機の心配したこともあった。それに対して返ってきたのは「そこら辺の加減はしてるから大丈夫」との言葉。まぁ、音駒バレー部の脳を担う彼の指先は特に繊細なんだろうし、研磨が大丈夫だと言うならきっとそうなんだろう。

バレーをやっている時と同じか下手したらそれ以上に真剣そうな表情で画面を見つめる研磨を、クッションを抱えて眺める私は所謂幼馴染みと言う関係だ。家が隣同士でお互いの部屋の窓と窓は簡単に移動出来る程度の距離しかないため、昔からよく忍び込んでいる。でも大体研磨はゲーム中なので、たまに一緒にやることはあるけれど研磨を眺めていたり自分の持ってきた漫画を読んだりしていることが殆どだ。

そんな状態でも研磨の部屋に通い続けた理由はただ一つ。
研磨のことが好きだったから。
だった、と言ったけど別に過去形ではなくて現在進行形。と言うか前にも増して好きな気持ちは大きくなっている。だって、今の私と研磨には幼馴染みと言う関係に加えて恋人と言う関係性が加わったんだからそうなっても仕方ないよね。

もう何年も温め続けていたこの想いがひょんなことから成就したのは数ヶ月前のこと。部屋から追い出されたことは無いから嫌われてるわけじゃないと思ってはいたけど、まさか付き合えるとは思ってなかったから驚きすぎて思わず思い切り頬を抓ってしまった。隣に居たクロのを。背が高いから必死に背伸びしてやったから大変だったんだよね。
まぁそんなこんなで恋人と言う関係になれたのは大変喜ばしいことである……のだけれど。

「……研磨」

付き合い始めてからも変わりなくこの部屋に入り浸ってる私。そして相変わらずゲームをしている研磨。今までと何も変わらないこのスタイル。もう慣れてはいるけどやっぱりね。少し、寂しいわけですよ。

「研磨」
「なに」

もう一度名前を呼ぶと、画面から目を離さないまま研磨が答える。これも今までと変わらない。私が何か話したいことがあって、それを研磨は無視する訳では無い。元々口数が多い方ではないから、大体は私が喋って時々研磨が相槌を打つ。今まではそれでも十分だったはずなのにどうやら私は欲深い生き物らしい。

「ゲーム楽しい?」
「?まぁ、楽しいけど」
「そっか」

途切れる会話。静かな部屋にまたボタンを押す音だけが響く。
もっと構って。
ゲームじゃなくて私を見て欲しい。

続けたかったその言葉は、それを言ったら研磨に面倒くさいと思われるんじゃないかと思って飲み込んだ。代わりにギュッと腕の中にあったクッションを強く抱き締めて、そこに顔を埋める。元々ゲームとバレーボール以外にあまり興味がなさそうだった研磨が彼氏になってくれた。それだけで十分だ。そう言い聞かせていると、なにやら視線を感じて思考が止まる。あれ?そう言えばボタンの音がしない。

「俺、どうでもいい人をずっと部屋に置いたりはしないよ」
「!」

そんな声に思わず反射的に顔を上げたら、思ったより近くに研磨が居てまた驚く。

「え、あ、研磨……」
「ごめん。俺、誰かと付き合うとか初めてだし、今までもずっと一緒に居たからこのままでもいいのかなって思ってた」

でもそれじゃダメだってクロに言われたんだよね。
そう言って研磨がそっと私を抱き寄せる。

「不安にさせてごめん。俺、ちゃんとナマエのこと好きだから」
「っ……私も!好き、です!」
「なんで敬語」

おかしそうに少し笑う研磨に、私も少し素直に思いを告げてみる。

「あのね、ちょっとだけでいいからゲームじゃなくて私も構って欲しいんだけど……」

そう言った私に、研磨はわかったと頷いて私から離れていく。それを目で追うと、どうやら床に置いてあったゲーム機を棚へと片付けるためだったらしい。片付けて戻ってきた研磨が私の前に座ったかと思うと、難しい顔つきになるから思わず首を傾げた。

「……何話そう」

研磨らしい言葉に思わず笑ってしまう。でもちゃんと考えてくれるってことだけでも研磨の愛を感じるよ。
手始めに、素人の私でも一緒に出来るゲームがないか教えてもらおうかな。そう伝えると、研磨の表情が輝いたので私もつられて嬉しくなった。


 



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