SS

  癒されたいシリーズ(キッド/DC)



「夜分に失礼、お嬢さん」

仕事に疲れて、気付けば窓を開け放したまま眠っていたらしい。
僅かな物音に顔をあげると、ベランダには月夜に照らされる真っ白な・・・

「怪盗、キッド・・・?」
「おや、ご存知でしたか。貴女のような素敵な方に覚えて頂けているなんて光栄です」

そう言って恭しくお辞儀をする姿は、まるでお伽噺に出てくる王子様だ。
どうしてここにだとか、目の前に居るのは指名手配中の怪盗なんだとか、色々考えないといけないことはたくさんある筈なのに。

「窓を開けたまま眠るのは危険ですよ?」
「すみません・・・ちょっと、疲れてて」
「そのようですね。目の下に隈が出来ていますよ、お嬢さん」

あまり無理はされない方が良い。
そう言って差し出されたのは小さな白いカモミール。

「カモミールの花言葉は・・・そうですね、秘密にしておきましょう」
「え・・・」
「残念ですが、そろそろ帰らなくては。魔法がとける時間です」

そう微笑まれて、思わず部屋の時計を振り返る。
短針と長針は丁度重なっていて、0時を示していた。

「っ・・・」

時計に気を取られているうちに、ベランダからは彼の姿は消えていて。
やっぱりお伽噺のようだなと思った。消えたのはシンデレラではなくて王子様の方だったけれど。私に残されたのはカモミールの花が一輪。残念ながらこれを頼りに探し出すのは難しいだろう。現実はお伽噺のように上手くはいかないな。そう思いながら、今度こそ窓を閉めようとベランダに近付くと、1枚のカードが目に留まる。テレビで見慣れたマークと共に記されていた言葉。

【カモミールの花言葉は『貴女を癒やす』 
いい夢を、お嬢さん】

その夜、私は王子様に出会いました




- ナノ -