癒されたいシリーズ(五次弓/fate)
「アーチャーさん」
「珍しいな、君の方から抱き着いてくるとは」
キッチンに立っているアーチャーさんの背後から、その逞しい背中に抱きついてみる。気配で私が近寄るのはバレていたようで、大して驚くこともない声が返ってきた。
「ちょっと、疲れちゃって」
特別な何かがあったわけではない。
ただ、タイミングが悪かった。
どれもがそれ一つであれば何ら問題ないことだったのに、全てが重なった結果、それは私に大きな疲労としてのしかかってきた。
「ふむ。抱き着くのは構わないが、疲れているなら紅茶でも淹れようかと思うのだが?」
「んー・・・欲しいです。でも離れたくない」
アーチャーさんの淹れてくれる紅茶は大好きだ。彼が選ぶものであれば、確実に私の今の状態を改善してくれると思う。だけど、今はそれよりもこうやって、彼のぬくもりを感じていたい。お腹に回した腕に力を入れて、頭をぐりぐりと背中に押し付ける。それはまるで子供のような幼稚な動作。こんな私を見て彼は呆れるだろうか。それでもいいや。
そう思ったのに。
「全く・・・。だが、そういう時に私を頼ってくれるのは存外嬉しいものでね」
いつの間にか洗い物は終わっていたらしい。
くるりと彼が向きを変えて、気付けば今度は私が腕の中に居た。
「そう言えば、この家の主は夜まで不在らしい」
「・・・うん、聞いてます」
「確信犯、と言うわけか」
「はい。だから、アーチャーさん」
私をいっぱい甘やかしてくれますか