DAYS



---東城はよく速瀬と話してるな
---速瀬くん?去年ね、同じクラスだったんだ
---そうなのか
---うん。あとは委員会も一緒だったから割と話しやすいのかも
---東城
---なに?水樹くん
---今度から部活でわからないことあれば俺に聞いて




◇◇◇




「おつかれ。みんな揃って...ないか。速瀬は?」

冬の遠征も終わった放課後。臼井先輩の声がして読んでいた本から顔を上げる。簡単なミーティングのために集まっていた教室に入って来た先輩は、ぐるりと教室を見渡して速瀬先輩の姿が見えないことに気付くと近くにいた国母先輩に尋ねた。

「委員会の後輩に呼ばれて少し遅れるってよ」
「東城も一緒に行ってるってさ」

だからもう少し待とうぜ、と言う灰原先輩の言葉に頷くと臼井先輩は近くにあった席に腰を下ろす。ミーティングまでまだ時間があるなら、と斜め前の席でアホ面を晒して眠りこけている喜一を起こすために椅子を蹴ろうとした足の位置を戻して視線を本に落とす。どうせ話し合いがまだ始まらないなら、静かにさせているに越したことはない。

「そー言えばよ、あいつらもなんだかんだで仲良いよな」
「あいつら?」
「速瀬と東城」
「あぁ。確か1年の頃からクラスとか委員会一緒だったんだっけ」

先程まで話していた話題が一区切りついたからか、速瀬先輩達の名前が出たからか。聞こえてくる話題はどうやら2人の話に移ったらしい。あの人達はもう少し静かに出来ねぇのか。本もゆっくり読めやしねぇ。別段近い訳では無いのに聞こえてくる声に思わず小さく舌打ちが漏れると、近くに居た佐藤と鈴木がこちらを見たがそれは気にしないことにした。

「東城が入って暫くはずっと何かあったら速瀬のとこ行ってたもんな」
「案外デキてたりしてな!」

くだらねぇ。なにがくだらねぇって、下世話な話題の内容もだが、そんなことを言いつつも誰もそうは思っていないのがわかりきっていることだ。灰原先輩はチラチラとキャプテンの方を見ているし、国母先輩もニヤついている。意図がわかりやすいっつーかなんと言うか。まぁ、当の本人は気付いていないようだがな。キャプテンの隣の臼井先輩は臼井先輩で、普段なら止めそうなのに頬杖をついて傍観の体制に入っている。ああなった時のあの人には近寄らないのが一番だ。

「部内だと速瀬が一番付き合い長い?」
「俺が一番だ」
「シバ、お前起きてたのか」
「俺は佳那さんを中3の頃から知っている」
「と言うことは同じだな」
「は??」
「...バカが」

バンっと大きな音を立てて立ち上がったのは喜一で、どうやら東城先輩との付き合いの長さに反応したらしい。臼井先輩の冷静な突っ込みを喜一は本当に理解出来ていないらしく、疑問符を浮かべている。どうせアイツは自分が中学生の時に会ってるから高校生になって出会った先輩たちより早い時に知り合ってるとか思ってるんだろうが、てめぇが中3って事は1個上の東城先輩は高1だから他の先輩と一緒なんだよ。長さ的にはかわんねぇだろ、タワケが。

「佳那さんは誰にもやらん!キャプテン、あんたにもな!」

このバカ...
いきなり何を言い出すかと思えば、声高らかに叫んでキャプテンに向かって指をさす。その姿に周りの先輩たちも同級生も呆気に取られたように喜一を見ていて、キャプテンも例に漏れず突き付けられた指を見つめて首を傾げていた。とりあえず、立ったままのバカを黙らせようと拳を振り上げた瞬間。

「佳那はやらないぞ」

聞こえた声に一瞬、部室の時間が停止した。



「なぁ、水樹。お前は東城のことどう思ってるんだ?」

静かだった部室に臼井先輩の声が響く。その質問は、誰もが一度は思ったもので、そして誰も聞けなかったものだった。

「佳那?好きだけど」
「な...」
「水樹お前...!!」

突然の質問に特に言い淀むわけでもなく、さもそれが当たり前のように、キャプテンははっきりと言い切った。一呼吸おいてそれに驚いたような表情になるやつ、歓喜の声をあげるやつ、一気にまた教室内が騒がしくなる。質問をした臼井先輩は、水樹ならそういうと思ったよ、と落ち着いているが、その通りだと思う。今までのキャプテンたちを見ていればぎゃーぎゃー騒ぐような事でもねぇだろ、今更。

「それ、本人に言わねーのかよ!」
「言おうとすると佳那が困った顔で笑うからな。それは嫌だ」
「...」
「それに俺たちには全国大会に出て優勝するという目標がある。それを達成出来るまではこのままでいい」

テンションの上がった灰原先輩にバシバシと叩かれながら答えたキャプテンの言葉は意外な物だった。なんにも考えてねぇのかと思ったら、あの人なりに考えてることはあるってことか。それ以前に東城先輩に伝えようとしたことがあるのかよ。って、こんなこと考えるだけ時間の無駄だ。俺らが考えても何も変わらねぇし、どうせどれだけ掛かろうともあの2人が最終的にどうなるかの結末は見えている。そんな犬も食わねぇようなことを考えるのは置いといて、一先ず俺がやるべき事は、未だにキャプテンの言葉から立ち直れずに佳那さん、佳那さんと呟いている喜一の頭をぶん殴ることだった。




『S.D.S.コンチェルト』




◇◇◇

---すいません、遅くなりました!
---悪いな、思ったより手間取っちまって
---速瀬ずるいぞ
---あ?
---佳那、ここ空いてる
---ありがとう、監督ももうすぐ来るって
---そうか
---俺は無視かよ...
---速瀬、面白いことあったから後で説明してやる





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