DAYS



※「aspiration」様の速瀬話とタイトルが被っていましたが、管理人様に確認を取り許可を頂けたため、そのままで掲載させて貰っています(2016.10.15)





「委員会で頭使うと甘いもの欲しくなるよね」
「ほんと甘いもん好きだな、お前」
「糖分は大事だよ、速瀬くん」
「そーかよ。なら近くに美味いケーキのあるカフェ知ってっけど、寄ってくか?」
「!!」




◇◇◇




「東城、なにそれ美味そう」
「新しく出てたやつなんだけどね、美味しいよ。水樹くんも食べる?」
「うん」
「はい、どうぞ」

爽やかな快晴の日曜日。普通ならどこかに出かけるのに丁度良いような天気の中、相変わらず部活に精を出していた俺達は午前の練習を終えて昼休みに入っていた。各々が持参した昼食を食べている中、一足先に食べ終わった東城はコンビニの新製品スイーツとやらを食べていた。相変わらず目敏く見つけて食べてんな。
あいつの甘いもの好きは部活の中では結構有名な話で、コンビニの新製品はもちろん、近くにケーキ屋とかが出来るとよく練習後に立ち寄っている。そんなことを思いながら眺めていると、近くで食っていた水樹が東城の手元を覗き込んでいて、それを東城は特に気にした様子もなくスプーンに1口掬って差し出している。差し出された方の水樹も別段気にすることも無くそのスプーンに食いついて、美味いな、と飲み込んだ。その一連の光景がやけに鮮明に映って、なぜか少し胸がざわついた。

「速瀬、どーした?」
「いや...アイツらホント仲いいよなって思って」
「あそこまでいくと恋人通り越して夫婦かって話だわ」

横で飯を食いながらスマホを弄っていた国母が声を掛けてきたのでそう返すと、笑いながら肯定された。夫婦、ねぇ...
2人のさっきのようなやり取りは別に珍しい光景ではない。今回みたいにスプーンを差し出すのも、飲んでいる飲み物を差し出すのも、普段よく目にしているものだ。なのに。今日はそれを見ていると妙に落ち着かないような気がする。あー、もうわけわかんねぇ。

「嫉妬か?」
「は?」

誰が?誰に?
国母の発言の意図がわからなくて思わず聞き返す。すると国母は驚いたような顔をして、なにお前気付いてねーの?と言う。だからなにがだ。そんな意味を込めて一睨みすると、国母はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべながら言い放った。

「お前ここんとこずっと、東城のこと目で追ってんだよ」




---




「はーい、じゃあメンバー交代してもう1セットね!」

グラウンドに響く東城の声。その声はいつもと変わってないはずなのに、やけにはっきりと聞こえるのはきっと国母のせいだ。ミニゲームを1セット終えて、コートの外に出て息を整える。顔に流れる汗を拭くタオルの隙間から見える東城の姿は立派なマネージャーのそれで、表情も出会った当初より凛々しくなっているような気がした。
アイツと出会ったのは1年の時で、たまたま同じ委員会になったことがきっかけだった。派手ではないが、話すとなかなか面白いやつで、甘いもの好きなのを知ったのもその頃だった。部活のない時は俺のよく行くカフェに連れて行ったこともある。2年になるとクラスが離れ、接点も無くなったと少し残念に思っていた矢先に水樹がマネージャーとしてやや強引であったが入部させ、また接点が出来た。全く知らない男だらけの部室に連れてこられたアイツの、俺を見つけた時の安堵した表情は今でもよく思い出せる。その時はまだ、俺が一番アイツに近かったのに。気付けば隣にいるのは水樹になっていた。俺じゃ、ない。そこまで考えて、ハッと我に返る。これじゃあまるで国母の言ってた通りじゃねーか。

「速ちゃんおつかれー」
「!...風間か。ったく、誰が速ちゃんだ」

そこへいつものように軽いノリでやってきたのは、同じく前半で交代した風間だ。2年下とは思えない態度で俺の横に座ったヤツの頭を叩くと、へらりと笑った。叩いたところで大して効果はないだろうが、俺自身も本気で気にしている訳では無いので別にいい。1年の癖に生意気ではあるが、サッカーの技術は本物だし、なんだかんだで色々考えているヤツなのは知っているので多少は目を瞑ってやろうと思う。

「前から思ってたんだけどね。速ちゃんさ、佳那さんのことホント好きだよねー」

ミニゲームをしているメンバーに目を向けたまま、大したことではないようにさらりと風間が言う。俺のことは速ちゃんで東城のことはさん付けかとか、言いたい事はあるが今 は一旦置いといて。色々考えている奴とは言ったが、考えすぎだろ。こいつは。

「あ、気付いてるの俺だけじゃないからねー??」

そんな俺の思考が伝わったのか、風間が笑う。まじか。風間だけじゃないって他に誰がいるんだよ。俺自身がさっきやっと気付いたところなんですけど。そこまで考えて、ふと嫌なことに気付く。風間以外も気付いているとして、まさか...

「大丈夫、たぶん佳那さんは気付いてない」
「...エスパーか、お前は」

さっきから風間に俺の考えていることは筒抜けのようで思わず頭を抱えた。俺ってそんなにわかりやすいか?と風間に尋ねると、うーん、と何かを考えるような素振りを見せる。そして、あ、と思い付いたように声を上げた風間は首だけこちらに向けて爽やかに告げた。

「とりあえず1回自分の顔を鏡で見てみたらいいと思うな!」




---




「まじかよ...今更なんて言やいいんだ...」

グラウンドの端にある給水場。近くにあった窓ガラスに映る自分の顔は少し紅く、楽しそうな風間の顔が目に浮かぶ。練習した後だからと言う有りきたりな言い訳も考えたが、直ぐに止めた。今の問題は自覚してしまったこの感情をどうするかと言うことで、とりあえず冷水を頭から被る。落ち着け俺。状況整理を...

「あ、いたいた。速瀬くん!」
「っ!な、なんだよ...」

落ち着こうとしていたのに、いきなり東城に呼ばれ、慌てる。まさかここで本人が登場するとは予想していなかったので、顔も頭もびしょ濡れで向き合うことになった。

「次の合宿のことでちょっと...って頭!濡れてる!」
「あー...」
「ミニゲーム後で暑いかもだけど、ちゃんと拭かなきゃ!」
「うぉっ...」

風邪引くよ、と言いながら持っていたタオルを握って近付いてくる東城。一瞬呆気に取られていると、目の前が白くなる。それがタオルだと気付いた時には、わしゃわしゃと東城によって頭を拭かれていた。その瞬間にふわりと香った、汗臭い俺たちとは違う甘い匂い。てか、近ぇな...水樹との時にも思ってたが、基本的に東城は距離が近い気がする。一応、俺らも年頃の男なんだが警戒心ってものが無いのか、こいつは。信頼されているのかそれとも男として認識されていないのか。そう思うとなんだか無性に腹が立ってきて、自分より少し下にあるであろう東城の頭に手を伸ばした。

「わ、なに!髪ぐしゃぐしゃになる!」
「うるせー、お前も人の髪掻き回してただろーが」
「私は拭いてただけなのに!もう!」
「好きだバカ」
「...へっ?!」

つい勢いで、俺は何を言った?
騒いでいた東城が静かになったと思ったら、次の瞬間に聞こえた間の抜けた声。恐る恐るタオルの間から覗くと、東城は目を開いて固まっていた。その姿すらもう、なんというかいいなと思ってしまう俺は相当なんだろう。しかしこのまま固まられていても困るし、気まずい空気が続くのも困るので、冗談だ、と声をかけて終わらせようとした時。

「速瀬くん」
「あ?」
「私も好き、だよ」
「っ...」

少しはにかむようにして、上目遣いで言われた言葉に今度は俺の方が言葉を詰まらす。反則だろう、それは。もう水樹と仲がいいとか、国母や風間に言われたこととかどうでもいい。今のこの幸せを確かめるように、目の前の小さな体を全力で抱きしめた。




『恋愛注意報』




◇◇◇

---風間!
---なんスかー、副キャプ
---速瀬知らないか??
---あー...知らない、かなー
---隠すと外周な
---あっちでイチャついてます!たぶん!
---そうか。助かったよ
---(ごめん、速ちゃん...)






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