DAYS



「なー、喉乾かね?」
「ならジャンケンしようぜ!負けたやつが買ってくるってことで!」
「よし!じゃーんけーん...」
「よっしゃ!ナッキーよろしく!俺コーラ!」
「俺はー」



◇◇◇




(来栖がコーラでニトが...)

「ナキくん!ナキくん!」
「わっ…東城先輩」

一星戦後に戻ったホテルの廊下。ジャンケンで負けて飲み物を買いに歩いていた背中に掛かる声に今帰仁は驚いて肩を揺らす。珍しくいつもよりも大きな声に振り返るとそこには興奮した様子の佳那の姿があった。

「今日のプレーほんとにすごかったよ!!最後のカウンターとか私、感動しちゃった!」

ほんとに!
興奮しすぎて同じことを繰り返しているマネージャーに今帰仁は一瞬呆気に取られ、その後苦笑する。喜怒哀楽の感情表現が豊かな彼女は自分より年上のはずなのに、そうは見えないことの方が多い気がする。部活に入部してしてまだ長くは経ってないが、なんとなくそう思うことが多いのはきっと気のせいではないだろう。内心でそんなことを思いつつ、今帰仁はありがとうございます、と返した。

「でもまだまだ課題は多いので…ミスもあったし、点も取られたし...」

後半のゴールキック時にボールを自分の足に当てたり、ゴールを奪われたことを思い出して今帰仁の声のトーンは下がる。不動の正ゴールキーパーである猪原が不慮の怪我で突然巡ってきた出場機会。ゴールキーパーは途中出場が一番難しいポジションだと言われている。そうだとしても、いつでも出れるような準備はしてきていたつもりだった。そして今日、実際にその場面が来た。結果としてチームは勝利し、その一員になれたことが嬉しい反面、改めて自分に足りない部分を感じたこともまた事実だった。

「それは仕方ないよ。まだ1年生なんだから」

先ほどまでの興奮した声とは一転し、優しく響く声。それと同時にそっと頭に置かれた掌の暖かさにゆっくりと視線を上げると、声と同じくらい優しく微笑んでいる佳那と目が合った。

「猪原くんだって、ほかのみんなだってそんな時はあったはずだよ。だから、焦る必要なんてない。ナキくんの努力はみんな知ってるよ。いつも頑張ってるから今日、突然の出場だったけど乗り越えられた」

だから胸張っていいよ。
子どもをあやすように優しく頭を撫でながら紡がれる言葉は今帰仁の心に染み込み、スッと肩の力が抜けた気がした。あぁ、この人はなんだってタイミングよく欲しい言葉をくれるのか。撫でてくれていた手を取り、顔を上げて真っ直ぐに目を合わす。そして微笑む佳那に笑顔で応えた。

「東城先輩ってやっぱり先輩だったんですね」
「えっ?!どういうこと?!」

なんでいきなり?!
今帰仁の言葉にわたわたと慌て始める佳那。そこには先ほどまでの頼れる年上の面影はなく、ホントによく表情が変わる人だなと今帰仁は思った。

「私なんか変な事言ったかな…?」
「そんなことないです。俺の方こそ、ありがとうございました」
「うん…?どういたしまして?」

今帰仁の言葉に納得できていないような佳那を横目に今帰仁は満足そうに微笑む。その胸に広がる淡い気持ちに名前がつくのはもう少し先の話になりそうだった。




『その感情に名前をつけて』




◇◇◇

---ただいま
---ナッキーおせぇよ!どこまで買いに行ってたんだよ!
---喉カラカラだぜ!
---あ
---ん?
---ごめん、飲み物買い忘れてきた
---はぁ?!





- ナノ -