DAYS



「水樹、お前がキャプテンだ」
「キャプテン?」



◇◇◇



「水樹くん、キャプテン就任おめでとう」
「東城」

監督との話が終わり、なんだかよくわからないまま気付けば部室に来ていた。誰もいないと思った部屋には東城がいた。1人でテーピングの練習をしていたらしい。相変わらずこいつの努力はすごいと思う。東城は俺を見ると読んでいた本とテーピングテープを置いて駆け寄ってくると、笑っておめでとうと言った。

「うん。なんかキャプテンらしい」
「臼井くんがね、監督に言ったみたいなの。みんなも全員一致で賛成でね」
「そうか」
「もちろん私も大賛成だったよ」

そう目を細めて笑う東城を見て嬉しいと思うと同時に言いようの無い気持ちが生まれる。
臼井は監督に、一番強いやつがキャプテンになればいいと言ったらしい。だが、強いとはなんだ?フィジカルか、シュート力か、精神力か、その全部なのか、それとも全く違うなにかなのか。俺の強さとはなんなのか。臼井のように頭の良くない俺にはよくわからなかった。


「どうしたの?」
「え」
「なんか難しい顔してる」

東城の声にハッとすると、先程まであった笑顔ではなく少し心配そうな表情の東城が俺の顔を覗き込んでいた。東城にそんな顔をさせるのは嫌で、なにか言おうと思ったが自分でもよく分かっていないこの気持ちを言葉にするのは難しかった。

「俺は臼井みたいに賢くない」
「灰原みたいに周りを盛り上げてもやれない」
「東城みたいに周りをよく見て世話も焼けないと思う」

上手くまとめられないから、思っていることをそのまま話す。それになにか言うわけではなく静かに聞いてくれる東城。

「でも、全国に行って優勝するという気持ちは誰にも負けないつもりだ」

1年の時に連れて行ってもらった全国大会は俺の世界を変えた。もう1度あの場所に行きたいと思った。でもこの前の選手権予選、俺達は負けた。負けるという事は何かが終わるということだ。あの時の3年の先輩達の顔は忘れられない。あんな顔をするチームメイトを見るのはもう最後にしたい。

「そのために俺はゴールを決める」

キャプテンとして何をすればいいのかは正直よくわからないが、俺に出来る事はこれしかなかった。言葉にするのは苦手だから結果で示す。そのための努力は惜しまない。

「うん。水樹くんらしくていいと思う」
「東城に言われるとほんとにそう思えるな」
「そうかな?」
「あぁ」

それならよかった、と言う東城の表情はまた笑顔になっていた。やっぱり困ったりする顔より笑顔の方が似合うと思うから、ずっと続けばいいと思う。

「東城」
「なに?」
「俺達は全国に行く」
「うん」
「そして1位になる時はお前も一緒だ」
「!!」
「だから、力を貸して欲しい」

そう言って頭を下げる。すると少しして両手を握られて顔を上げた。目の前の東城の目からは涙が流れていて、また少し焦る。泣くほど嫌だったのだろうか。すまん、と言いかけた俺の言葉を遮って東城は、嬉しいんだよ、と泣きながら笑う。そうか、嬉しくても泣くのか。


「私ね、水樹くんにマネージャーとして誘われた時に決めたの。必要とされたからには何があっても支えようって。だからね、みんなで一緒に全国に行こう」

声はしっかりと力強く響く。この声を聞いたらキャプテンも務まる気がするから不思議だ。やはり東城をマネージャーに誘って正解だった。真っ直ぐに俺を見る目元にはまだ涙が残っていて、それが夕陽に反射して光っている。綺麗だと思った。東城が泣くのは困るが、これなら嫌ではない。優勝したらまた見れるだろうか。そんなことを考えながら東城の手を強く握り返した。





『密約アリア』




◇◇◇

---冬の遠征が楽しみだ
---試合いっぱいできるもんね
---うん
---でもね、水樹くん
---なんだ?
---その前にたぶん試験のための勉強合宿だよ
---え
---......頑張ろうね



- ナノ -