「さて、どうしたものか…」

目の前で少年はぐっすりと眠っている。鬼の一撃を喰らった後、回復術を施して出血は止まったものの左半身へのダメージがまだ残っている。容態を見るに絶対安静、だなこりゃ。頭をポリポリと掻き、困り果てる。いつ回復するかもわからない少年をこのまま無防備には置いていけない。まあ行く宛もないし、回復するまで待つか。と呑気に考えていた。

「カァー!カァー!ナニをしている!ナニをしている!」

先ほど着けられた鎹烏が周囲を飛び回る。
こいつ喋れるのか、誰かの口寄せ動物か?と変な視線を送っていると、鎹烏は近寄ってきて肩に乗る。口寄せ動物と等しく鎹烏にも意思があるようだ。

「ああ、そうだ。爺さんにこれを届けてくれないか。桑島 慈悟郎ていう爺さんで世話になった人なんだ。」


これまでの世話になった感謝を込めて、最終選別を終えたこと、放浪の旅に出ようと思うことなど、
徒然なるままに気持ちを記載した手紙を鎹烏の足に結びつけた。鎹烏は一声鳴くと羽ばたいて行った。

「…こ、ここは?」
「目が覚めたのか?」
「なんだこれは!?俺は一体…あんたは確か最終選別の時にいた...」 
「そのナメクジは体を癒す。1週間経ったくらいか。まだ動かないことを勧めるよ。一命を取り留めているが損傷がひどい」
「狭霧山に、鱗滝さんのところに帰らなくては…」
「あぁ。もう少し体を休めてから向かうといい」
「...漢がこれくらいの傷で...!」
「普通なら死んじゃうくらいチョウ重症だぞ」

タフだなぁ、と呆れながら少年を見る。
起き上がった衝撃で骨の何本かが軋み、悲鳴を上げたその様子にやれやれ、という他ない。

△▼


少年は錆兎と言う。
わたしも口達者な方ではないが、お互いに暇なため治療の傍、意識がある少年とたくさん話をした。
富岡義勇と知り合いらしく、彼のあったことを話すと、そうか。と誇らしいような切なそうな顔をした。


戻ってきた鎹烏が頭上で円を描きながら飛び回る。
名前ー!名前ー!と叫ぶ鎹烏は、任務を知らせにきた。

「嫌だね。なぜ私が進んで鬼退治をしなければならない。」
「...カァーーッ!!!」
「なにいってるんだ。鬼殺の剣士が鬼退治しなくてどうする」
「あまり戦いたくないんだ」
「鬼と戦うために鬼殺隊に入隊したんじゃないのか」
「んー。どうも私は稀血という奴で鬼によく襲われるんだ。だから鬼の対処法を知りたくて鬼殺隊に興味があったんだ。」
「...」
「それにこの刀も手に入ったし」
「色変わりの刀か」
「あぁ。錆兎が寝てる間にひょっとこのお面を被った人が来て、渡してくれたんだ」
「...お前は何者なんだ。俺を癒した奇妙な術といい、あんた人間なのか。」
「...間違いなく人間だよ」

バケモノ、と言われた記憶が脳にこびりついている。
遥か昔のことなのに心に染みついて離れない。
私の心の動揺を感じ取ったのか、腹の中の犀犬が蠢いたような気がした。




▽▲


「なんで私についてくる…?狭霧山とやらもこっちの方角なのか?」
「あんたに助けられた恩を返す。狭霧山には...必ず帰るさ」
「私に恩を感じる必要はないよ。何度も言ったが最終選抜で君が鬼を討伐したから、私は生きているようなものだ。」
「だがあの時、あの鬼に俺の刀は届かなかった。俺はお前がいなかったら死んでた。漢なら恩は恩で返す」
「ふふっ、律儀だなぁ。」
「...それにあんたは見てないと消えちまいそうだからな」
「ん?なにか言ったか?」


山風が二人の間を吹き荒れる。
完治とはいかないものの、錆兎は歩けるほどに回復した。
私は医者ではないから精密な診察はできない。握力を何度か確認している様子を見ると、後遺症が少なからずあるかもしれない。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
×
- ナノ -