最終選別とやらで、藤襲山に放り込まれて5日が経った。

集まった子供らは帯刀していた日輪刀で、鬼を狩っていた。
爺さんに日輪刀をもらっていない私は当然鬼の首を斬るという選択肢はなく、こんな鬼がうじゃうじゃいる山で逃げ惑うことになった。
生き残るために気配を極限まで消して身を隠すに徹した。

強い鬼は気配では匂いで人間を探知するらしい。
匂いに気づいて襲ってくる鬼もいたが、姿を見つけることができない私を捕まえることができずにいた。
逃げては隠れたりと私が巻いた鬼は、狐のお面をかぶった宍色の髪をした子が次々に滅していった。
相当な剣の使い手のようで、鬼に怖気つくことなく立ち向かう姿は勇敢だった。彼が他の子供らを助けている所を何度も見た。


不穏な鬼の空気に気づいたのは私だけではなかった。
いくつもの手が巨体から生え、首を守っているかのような姿をした鬼はそこらの鬼とは強さが桁違いだ。
私の匂いを探知したのか当たりの木々を薙ぎ倒し、探しているようだった。しかし、見つかったのは私ではなく、狐のお面の少年だった。彼は鬼となにかを話していた。内容を聞くことができなかったが、どうやら因縁があるらしく、怒った少年が手鬼に斬りかかる。鬼の邪悪な気配に臆することなく立ち向かう少年の剣技は研ぎ澄まされており、思わず魅入ってしまった。

しかし、鬼と少年の戦いは急転する。
留めを刺そうとした少年は首を切ろうとするも、首に当たった瞬間に刀が折れた。
空かさず鬼の手が伸び、少年の頭部目掛けて殴りかかる。

「(....!!!)」

条件反射で持っていた小刀を投げつけ、鬼の腕の軌道を晒した。
辛うじて少年の頭部への致命傷を防いだが、小刀ではやはり晒しきれず、少年の体は吹き飛んだ。素早く血塗れの少年を回収し、瓦抱きで木々を飛んで戦線を離脱した。巨体であり機動力に欠ける手鬼も戦いで消耗をしており、追いかけてくることはなかった。

(体の損傷がひどい。かなり負傷しているが息はまだある。咄嗟に反応してしまったが...くそっ、人を助けてる場合じゃねえってのに)

「あ、あんたは...?」
「....」


意識がまだあるのか、しぶとい奴だな。
周囲に気配がないところで少年を下ろし、泡で包み込み回復させるも、損傷が激しい少年を回復させるのは困難だろう。自分ではどうすることもできず心の中で犀犬、と相棒の名を呼べば、ナメクジの分身が現れ少年の体に張り付く。半透明の泡に包まれ、半身には大きな蛞蝓が張り付いたなんとも奇妙な状態だが、一命を取り留める最善策だろう。

「この中でじっとしていろ。」
「(言われなくてももう指一本動かせない...)」

鬼を引き寄せてしまう自分が近くにいては、回復状態のこいつが余計に危険である。
さっきの化け物が追ってこない保証もない。
とりあえず水化の術で少年の身を隠し、自分は逃げ回ろう。
犀犬の力を分散させてしまった分、自身の身が危険にさらされるが致し方ない。



最終選抜終了まで残り数時間。日の出がやってくる。
私は相変わらず逃げては隠れ、戦闘を回避してやり過ごした。その間、少年の状態に確認する暇などなかった。

待ちわびた朝日が昇る頃、広場には試験開始時と同様に子供らが集まった。
宍色の髪の少年が多くの鬼を切り、子供らを助けたからか無傷な者も多かった。





開始時同様に不気味な少女が宣言する。

「おめでとうございます。」
「ご無事でなによりです。」

隊服や階級について説明した後に、順番に玉鋼を選んだ。これが日輪刀になるらしい。また連絡用にと鎹烏が個々に付けられた。

そんな中、辺りを見渡しては顔に絶望の色を浮かべる少年が一人。
紺色の髪をした少年は私の胸倉を掴みかかってきた。
少年は、泣いていた。

「錆兎は!?おまえから錆兎の匂いがする、錆兎が、死ぬはずがない!どこにいる?」
「さびと...?なんのことかわからない」
「宍色の髪で、狐の面を被ったやつなんだ...」

私が知らないというと、少年の威勢は無くなってしまいか細い声で何を言っているのか全然聞こえなかったがポロポロと泣き出してしまった。
少年は私の水色の鱗模様の着物に着いた血を見ると、何かを悟ったのか更に泣き出してしまった。項垂れるその様子に解決の糸口が見えず、ただ慌てるしかなかった。

「いきなり泣き出してどうしたんだ...??」

あわあわと私が慌てる中、少年は何も喋らずただ泣くばかり。何を聞いても話をしてくれなく、仕方ないからハンカチで少年の涙を拭った。少年が泣き止むまで側で付き添い、なんてことない話をしては気分が軽くなるように念を込めて背中を摩った。

「私は名前。君は?」
「義勇...。富岡、義勇....。」

ポツポツと私の質問に回答してくれたが、義勇は元より無口な性分らしい。精神的に取り乱しているせいもあり、泣き止まない彼は名前以外に私の語りかけに答えてはくれなかった。


空虚な目をし、帰路に就く彼の寂しそうな背中をただ見守るしかできなかった。

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