瞬き

※五条と恋人。浮気?





カツカツとヒールを鳴らして足早になる。帰宅してシャワーを浴びて、ドライヤーはもうめんどくさくて放棄し、テレビをつけてチャンネル回してお気に入りの深夜番組をつけた。目線はテレビだけれども音声はすべて右から左へ。いや、右から入ってすらいない。いつもゲラゲラ笑ってみていた番組も、全然笑えない。あれ?こんなおもしろくないってけ。あーもうこんな日はとプシュッと開けた缶ビール。そういえば自棄酒に付き合ってくれた友人の言葉を思い出した。「たった一回」。わかっている。たった、たったの一回。それでも私にとっては重大な、非常に重たい一回なのだ。私は絶対に許せないし許さない。
いやいや。「たった」じゃないでしょ。こっちが同じ事したら絶対に許さないでしょ?いつの時代だってそう。マリーアントワネットやダイアナ妃、最近でいうとベッキー。女性が浮気や不倫をしたら絶対に許してもらえない。男の人は文化ですから?たった一回?女性軽視にもほどがある。絶対に許さん。
テレビでメイン司会者が八重歯を見せながら笑っているのが目に映るも私は何にも笑えない。向かい側に座る巨大なオネエのツッコミが空間に響き渡る。
あぁ、もう、うるさい。私のカバンの中からぶつぶつとバイブの音がうるさい。もしかして、弁解する気にでもなったのか、それとも謝罪でもしてくれるのか、それとも?とにかく出る気にはなれない。というか、体が拒絶反応を示し、うっかり通話拒否ボタンを押してしまった。ロック画面に戻ると何件も着信があったことに気づいた。名前を見たくもないから電源を切った。きっと、電話がなかったらないで、それはまたもっと許せないのだろうけれど、電話で謝られたって許さない。今更反省しても無駄。
今日のために準備したネイルも、時間をかけて丁寧に巻いた髪も、おろしたてのワンピースも、無理して久々に履いたハイヒールも、全部全部無駄だった。今考えればどれもこれも全然かわいくない。全部悟の趣味だ。
約束したのに。なんで、どうして。私だけって言ったのに。いろんな思い出が、気持ちがぐるぐると回る。嫌いになれたらどんなに楽だろう。こんなに大好きなのに、私だけだったのか。
スマホを人をだめにするソファに目掛けて投げた。ふとビーズクッションの横の棚のハサミが目に入り、あいつがサラサラで綺麗だなって褒めてくれたロングヘア―を切ってしまおうかと手に取った。肩よりも少し上くらいかとハサミをあてた。すると次の瞬間、「ねえ」と声をかけられた。今一番聴きたくない声だ。ハサミは私の手から落ち、髪の毛がパラパラと落ちた。は?

「なにしてるの?」

窓辺に立つ自他共に最強の男。


「なんで、どうして」
「窓に鍵かかってなくてよかったよ。任務は恵に任せてきた。」
「なにしにきたの?」
「馬鹿なの。こんな顔で走り出した彼女を放っておけるわけないでしょ。」


そっか、窓空いてたのか。
窓からずかずかと土足で入ってきて力ずくで私を抱きしめてキスをした。
イヤ、イヤ、イヤ、イヤ、さわんないで。
もちろん抵抗したが適うはずがなかった。また涙が溢れてきた。何度も何度もキスをされた。


「愛してるよ」


だめ、だめ、だめ。
大好きだから、絶対に許さない。








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