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「ねぇ、ほんとに狙撃手やめるの?」
ジューっと目の前でお好み焼きが、お腹がつい減ってしまう匂いを漂わせながら、火が通り始めている。
「ユズル、ひっくり返していい?」
「まずは質問に答えなよ」
ここのお好み焼き屋は、ユズルの隊の隊長さんの実家にあたるので、今は人が少なく、ユズルが気にして、伝えてくれていたのか、なるべく周りに他のお客さんがいない席に案内してもらえた。この事から理解出来ることは、ユズルは私から、色々と、それこそ深いところまで問うつもりだろう。
「やめるよ」
「なんで?」
「王子先輩が、心機一転にどうだって。面倒見てくれるって」
「鳩原さんに教えて貰った今までのことは捨てるってこと?」
「そういうわけじゃ、ないけど…」
「じゃあなんなの?」
はぁ、と弟弟子にため息をつかれてしまう。誰よりも私たちの師匠、鳩原さんの技術を尊敬していた弟弟子のユズルだからこそ、納得のいかないことなのだろう。私はごめん…とだけ呟いて下を向けば、別に謝ってほしいわけじゃないよと言いながら、お好み焼きをひっくり返す音が聞こえた。
「オレは、彩里の技術が勿体ないって思ってるだけだから。」
「うん…」
「でも最近、食べてないし寝てもないんでしょ」
「え、なんで…?」
「どれだけ一緒に訓練したと思ってんの、顔みたらわかるよ。隈ひどいし。」
「そっか…」
歳下の男の子にそこまで見抜かれてしまっていてはもう何も言い返せまい。鳩原さんがいなくなって数日、まともに食べれない、寝れない、そんな日々が続いていた。先日、勧めによって受診した際、不眠症の傾向が発現しているのとは間違いないと診断されてしまった。
「行ったんでしょ、病院」
「うん、とりあえず不眠症っぽいって」
「食欲は?」
「無いんだけど、鳩原さんの兄弟子だった玉狛の木崎さんに誘われて、最近からご馳走になり始めた」
「ふーん、じゃあ今日もこれくらいは食べてね」
私のお皿に半分に切ったお好み焼きが乗せられた。すごく美味しそうだ。一枚じゃなくて半分なところに気遣いを感じる。
「まぁ、攻撃手でも頑張ればいいんじゃない」
「え?」
「別に引き止めるために今日呼んだんじゃないし」
強敵なライバル減ると思えばそれはそれ。そう言いながら新しい生地を焼き始めた。
「ありがとうね、ユズル」
「べつに。たまには狙撃手訓練も来なよ」
「うん、ちゃんと練習する」
「でも二宮さんと仲良くしてるのはおもしろくないから」
「あぁ、うん、そうだね」
二宮さんはユズルに鳩原さんのことを教えていないようなので、私から話す訳にもいかない。ユズルには申し訳ないけれど。私も二宮さんが話してくれなければ、きっと同じように思っていたかもしれないし。私はいつか事実がわかり次第、ユズルに伝えようと思う。私よりも幾分、頼りになる弟弟子だけど、これは姉弟子としてのこだわりだ。
「ユズル、今焼いてるのちょうだい」
「食べれそうなの?」
「うん、美味しい」
「よかった。カゲさんも喜ぶよ」
今度会ったらお礼言っときなよ、と言いながら私のお皿に乗せてくれる。影浦さん、話したことないなぁ…。あの人怖いよね。なんてつぶやいたら、彩里も他の人に対してあんなんだからって言われてしまった。そんなことないと思うんだけどな。