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「遊真くん」
「なに?」

ぼすん、と音と共に頭には布団の柔らかい感覚、視界には見慣れた天井。私の首に顔を埋めているため、首筋にかかる髪の毛が擽ったい。身体をよじると「だめだ」と言って頭を動かせないように固定されてしまう。この体勢になってからどのくらいの時間が経ったのだろう。こんなに密着しているのに、遊真くんの体温を感じることができない。私の体温を奪っていくわけでもなく、私を冷やすこともない。ただ、遊真くんの身体がトリオン体であることを痛感させられる。

「そろそろ帰らないと、玉狛のみんな心配するよ?」

白い髪にそっと触って問いかければ、無言で頷きだけ返ってくる。そのうち退いてくれるだろう、それまでは私もこの距離を楽しもうと少しだけ首を彼の頭に傾けた。髪の毛のフワフワした感触はあるのに、匂いはない。彼のことを五感全てで感じることができない現実に溜め息を漏らしてしまう。

「…っっ!」

ふと首筋に痛み。突然のことに驚く私にさらに、ぬるりとした感覚が襲いかかる。冷たくも温かくもない、ただ感覚だけがその場に残る。身体に掛かっていた重みがなくなって、赤い目に捉えられる。

「痛かったか?」
「そりゃあ。思いっきり噛んだよね…?」
「おう。そんで舐めた」

ニヤリと舌を出して笑う姿が、十一の見た目でも中身は列記とした十五で、思春期の異性であることを実感させられる。私はまだヒリヒリとする首筋が傷になっていないか触ろうとしたが、先程まで頭を固定していが腕がいつの間にか手首を押さえられていてその行動をすることは叶わなかった。

「んで、ためいきが出るほど何考えてたんだ?」
「別に、なにもだよ」
「こんな時でもつまんない嘘つくね、アヤリ」

遊真くんにすぐばれることなど、SEの事を知っている隊員ならば誰だって把握している。それでも誤魔化すための言葉を選んでしまうのは、人間誰だってそうだろう。でも彼は考えていたことを話さないとこの手首は離してくれないだろう。別にこのまま離されなくでもいいけれど、先程からチカチカと携帯が光っているのを見ると玉狛の誰かから連絡が入っているのだろう。早めに帰さないと私も怒られてしまう。

「遊真くんの身体は冷たいなって」
「トリオン体だからな」
「うん。匂いもしないから、遊真くんを感じるものって他の人より少ないんだなって考えてたの」
「それで、ため息が出たってことか?」

そうだよと伝えれば、満足そうな表情が伺える。これで今日は解散。また明日もソロランク戦会場で。ってなるつもりだった。

「でもさっきみたいな痛みは残せるぞ」
「そりゃ、私今は生身だもん」
「きっと感覚的なものはアヤリに残せる」
「うん?体重とかも確かに感じるもんね?」

そうじゃなくって、なんて言うんだ…と腕の力は弱まらないけど、悩んでいる表情に変わる。あぁ、いつも通りだ。

「遊真くん、携帯。そろそろほんと…」
「”はじめて”って痛いらしいぞ」

右手を手首から離して、私の下腹部をそっと撫でる。その優しくて擽ったくて、いつも触られない場所を触られる感覚に思わず身体がみぶるいした。

「おれがアヤリのはじめてになれば、その痛いのはおれのものだな」
「そういうことするのはさ、大人になって、結婚とかする人同士でするんだよ?」
「それは日本のルールなのか?」
「絶対守らなきゃいけないものじゃないと思うけど、そう教えられるよ…」
「向こうじゃいつ死ぬかわからないから、そんなこと言ってられなかったな」

日本は本当に平和だな、レプリカが前に言ってたと呟きながら手は下腹部を撫で続ける。ゾワゾワと知らない感覚に恐怖すら覚えた。

「そんなこと言ってられなかったって、遊真くんはそういうことしたことあるの?」
「ないよ」
「じゃあなんで」
「そういうこと言ってる大人がいたからな」

戦争してるとな、そういう現場に遭遇することもあるんだぞ。そう言う遊真くんは、手首を押さえている左手の力が強まった。

「手首、痛い」
「うん。今からすることはもっと痛いと思う」
「そういうことするのは、きっと今の私たちだといけないことだよ」
「それでもアヤリに残せるもの残したい」

まっすぐ私を捕食者の目で見つめる遊真くんが嘘も、冗談も言ってないことが理解できる。心臓がドキドキする。私はなにも言葉を発せず、次に遊真くんが発する言葉を待つことしかできない。

「おれの身体じゃ、子どもを作る力は無いけれど、そういうことはできるんだよ」
「だから、アヤリがおれを感じることができるものを、感じてほしいんだ」

おれが生きているうちに、たくさん。

そんな悲しいことを、哀しそうな表情で言われてしうなんて。私は大好きな彼にこんな風に言って貰えて幸せなはずなのに。彼にこんな悲しい顔をさせないようにしていきたいのに。お願いだから少しでも、長く笑っていてほしいのに。右手で彼の頬に触れる。肌の感触はわかるのに、やっぱり体温は感じない。

「私は、少しでも長く遊真くんと一緒にいたい。ずっと遊真くんを感じていたい。」
「うん」
「だから、いけないことだとしても、なんでもいいの。私にたくさん残して」
「うん」
「好きだよ、遊真くん」
「おれも」

ありがとう、遊真くんはそう耳元で囁いて、私をさらにシーツの海に沈めていった。