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今日は花火大会だから、たまには二人でデートでもしてきたら?と小南先輩に言われた。デートって言葉が恥ずかしくって誤魔化そうと思ったのだけれど、遊真くんは花火に興味をもったみたいで行くことになった。修くんと千佳ちゃんはそれぞれに先約があったようで、「デートだな、アヤリ」なんて笑顔を向けられてしまっては私も恥ずかしい反面とても嬉しくなってしまう。
 花火大会は警戒区域から離れた場所で行われるため、いつもとは違う道を並んで歩くのはなんだか新鮮で。ちらりと遊真くんを見れば目が合った。そんなことが嬉しくなってしまって笑ってしまった。
「そういえば、花火ってなんだ?」
「そっか、遊真くんは初めての日本の夏だもんね」
「冬に日本に着いたからな」
「花火は夏にするんだよ。見たらわかると思うけど、空に火を打ち上げるっていうのかな。とにかく綺麗なんだよ。あと音が大きい」
「ふむ…」
 歩いていると、だんだん日が落ちてきて、周りに人が増えてくる。家族やカップル、友達で訪れている人で賑わいを見せている。会場につけば屋台や提灯で明るくて、色とりどりの浴衣で視界がいっぱいになる。私も最後にこういうお祭にきたのはいつだっただろう。目のあたりにすると、この賑やかな雰囲気に私の胸も高鳴る。足を一歩踏み出そうとすると、服の裾がピンと引っ張られた。振り返ると遊真くんが真剣な顔で見ていて、「どうしたの」と尋ねれば、「これは埋もれる危険がある」なんて言うのだからまた笑ってしまった。
「これはいったい、どう切り抜けたらいいのか…」
「遊真くん、提案があるんだけどね」
「お。なんだ? 作戦か?」
 これは、普段の私ならばなかなか言えない、いうならばお祭の雰囲気に充てられたからこそ言葉にできる提案なのだろう。
「手を繋ぎませんか…?」
「…なんで敬語なの?」
 声に出すとやっぱり照れ臭くって、これは迷子にならないために!なんて付け足してしまったけども、きっと遊真くんには私が手を繋ぎたかったことなんてばれてしまっているだろう。遊真くんは「よろこんで」って微笑んで、私の手を取ってくれた。


 今日の目的は花火だったので、屋台には寄らずにまっすぐ花火が良く見えると先輩たちに教えてもらった場所を探す。気温のせいもあって、手が汗がでじわりと湿ってきているのが分かる。気になって何度か離して手を拭こうと思ったけど、遊真くんが手を離してくれなかったのでずっとそのままだ。遊真くんはトリオン体だから汗はかかないし、暑くもないのかもしれないけれど。それでも離れない小さな手の感覚が心地よくて、汗、ごめんねとだけ一言謝れば、気にならないし、おれが繋いでいたいからと人にぶつからないように、視線は前のまま呟いてくれた。視線が前を向いてくれていてよかった、今の私の顔は真っ赤だろうから。暑さのせいだって言い訳しても、またつまらないウソって言われてしまうだろうから。
「なんか開けた場所にでたぞ」
「きっと先輩たちが言ってたとこだよ」
 私も遊真くんも身長が高いわけではない。少しでも見やすい場所を探しながら移動をしていたら、ドンっと音とともに空に始まりの花火が開いていた。


「おぉ、これが花火」
「綺麗だよね」
 なかなか興味深い。どんな仕組みなんだと見ながら頭をひねらせている。花火の仕組みは私もよくわからないよと言えば、じゃあ考えてもわからないなと諦めたようだ。
 大きな音がして、パッと光って、きらきらしながら落ちていく花火が昔から好きだった。大きな音にびっくりするのに、そのあとの大きな光が大好きで、いつも見ていた星を隠してしまうほど輝く花火は夏だからこその風景なんだなと、この瞬間を目に焼き付けておこうと必死に輝きを目で追いかけていた。
 ふと視線を感じて隣を見る。遊真くんがこちらを見ていたようだ。「どうしたの」って聞けば、「なんでもないよ」と応える彼はまた空を見上げ始めた。夜空の黒が遊真くんの白髪を際立たせて、白髪に花火の色が映り込んで。最後の散っていく花火とともに、遊真くんも私に綺麗な風景を残して消えてしまうのではないかと錯覚してしまう。否、いつそうなってもおかしくないのが彼の現状だ。消えてほしくなくて、離れてほしくなくて、握っていた手にぎゅっと力をこめる。「アヤリ?」なんて名前を呼んでこちらに視線を戻してくれる瞬間、今日の中で一番大きな花火が上がった。
「消えないで…」
「どうした、アヤリ」
「あ、ごめんね。なんだか、遊真くんが花火と一緒にどっか行っちゃいそうな気がして…」
 おかしいよね、なんでもないの、なんて誤魔化せば、またウソついてってため息をつかれてしまった。最後の花火なんだろう、連続して大きな花火が上がっている。声もかき消されちゃいそうな音で、遊真くんが何かを言ったのがわかったけれどよく聞き取れなくて「なに?」と聞き返す。
 するりと繋いでいた手の指が、指の間に入ってきて絡められる。突然繋ぎ方が変わって驚いたが、そのまま遊真くんの方に腕を引かれる。
「離さないで」
「え…?」
「おれは花火じゃないから、アヤリはおれを触れるよ」
「だから、おれのことをアヤリが離さないで」
 そう耳元で告げて、そのままこめかみあたりに軽いリップ音。こんな人がたくさんいる場所で、と思ったけどみんな花火に釘付けで私たちのことを見ている人なんていないだろう。遊真くんを見れば、花火を背景に少し眉を下げて微笑んでいて、これ以上に見ていたい風景はないと、私は目をいっぱいに見開いた。
「私は許される限り、遊真くんとずっと一緒にいたいよ」
「うん」
「だから、離れないでね」
「もちろん」
 どちらからもなく、お互いもう一度、繋いでいた手に力を込めて、空を見上げる。最後の花火がきらきらと落ちていくと煙の影からいつも二人で見る星たちが姿を現した。
「また来年も見たいぞ、花火」って呟く彼に「今度は屋台もゆっくり見ようね」と応えた。