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今日、隊室お邪魔してもいいですか?

そんなメッセージが入っていた。部隊の中で一番最初に読んだのはおれだったようで、「おれは自習してるからいつ来ても大丈夫だと思います」と当たり障りのない返信を送った。隊室のドアからコンコンとノックをする音がした。きっとメッセージを送った彼女だろうと、特に席を立たずどうぞとだけ声をかける。

「か、樫尾くん…」

はぁはぁと肩で息をしながら隊室へきた彼女。珍しく換装体ではないようだ。

「どうしたんだ、そんなに慌てて。先輩たちと約束でも?」
「いや、そうじゃなくってね。用があるのは樫尾くんになの…」
「ぼくに?」

珍しい。彼女は王子先輩の弟子だから、基本的には王子先輩に用事があることが多い。ぼくらは仲が悪いわけではないが、同い年の異性、違う学校であるとボーダーでしか会うことはない。会えば話すが特別会いに行くこともない。ぼくらの関係は所詮そういうものだ。

「ぼくに用事って?」
「樫尾くん、お願い…!」

ここまでまっすぐにぼくを見る、赤い瞳は初めてかもしれない。あまりにも真剣な表情にごくんとひとつ唾を飲む。

「私に勉強の教え方を教えてください…!」

彼女、梨本彩里の真剣な表情から発せられた言葉に、自身の気が抜けていくのを感じた。


**

結論から話すと、「」強を教えるためには自身が理解することが一番なのでは」と伝えると、梨本さんは納得した様子で、「じゃあ一緒にやってもいい?」と持ってきていた課題を
ぼくの向かいに広げ、行い始めた。梨本さんは緑川くんたちと同じ中学で、成績は非常に良いわけでもなく、悪いわけでもない。基本は分かるけど応用は苦手だと前に言っていたのを思い出す。トリガーに関してもそうだ。狙撃手から攻撃手に転向し、オプショントリガーの幅が広がったと王子先輩と話していたが、実際、メイントリガーの扱い方は器用にやってのけるのに、オプショントリガーに関しては、傍から見ていたぼくでさえ、使用をやめるべきでは?と進言してしまうほどだった。ぼくはこれまで、あんなに短い旋空弧月を見たことないし、これからも見ることはないだろう。

「そこの単語、過去形です」
「え、あ、ほんとだ。英語苦手…」

彼女のわからない問題にヒントを出しながら、なぜ、勉強ではなく、勉強の教え方を聞きに来たのか尋ねてみる。彼女は課題から顔を上げ、表情を暗くする。何か悪いことを聞いてしまっただろうか。

「玉狛第二の遊真くん、王子先輩が言うクーガー…」
「わかるよ。空閑くん」
「勉強が、危なくて……」
「どのくらい?」
「ネ…、外国からの転校生らしいんだけど、いやもうほんと…」
「それでも言葉は通じるんだから、多少はできるだろう?」

ぼくの質問に再び表情を暗くする彼女。これは相当なようだ。だが、ぼく自身に空閑くんとの接点はなく、勉強を教えるような義理もない。

「頑張って」
「他人事だと思って…」
「他人事だよ」

ぼくと彼女の関係は近過ぎず、遠過ぎず。会えば話す程度の距離で丁度いいのだから。