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椎名深琴という人物に出会い、彼女について追いかける日々が続いていた。彼女と出会ったのは、怪我をした選手がチームに貢献し勝利を導いているという噂が流れ、我々同業者の目に止まる頃だった。私もその時期に取材に訪ねただけの一人にすぎなかったが、実際に目にする彼女は、当たり前だが中学生で、幼さ残るその姿で大人に囲まれ、取材に応じる姿はただ不自然なものであった。

まだ子どもじゃないか。この子どもが既にスポーツをプレイする楽しさを怪我によって奪われ、それでも頑張ろうとチームの為に練習を考え結果に繋がっているというのか。彼女だってまだ遊びたい年頃だろう。スポーツじゃなくとももっと楽しめるものも、今から文化系の部活に転部して、自身が結果を残すために努力をする道だってあるはずだ。なにが彼女を怪我からこのグラウンドに引き戻したのだろうか。

彼女に聞いてみたことがある。
彼女は笑いながら「やってみないか?って監督に言われたからですよ」とだけ応えた。

きっかけはそうかもしれない。だが、たかが中学生の女の子がそれだけでここまでの偉業を成し遂げるだろうか。

彼女について考え、追いかける日々が続きながら、彼女は勝利を積み重ね、多くの取材陣が目をつける存在になった頃だった。
彼女の存在は忽然となくなった。
なにがあったのかは語られず、我々取材陣の前から姿を消してしまった。悲劇のヒロイン、勝利の女神と題目をつけられた彼女は、我々の見る幻だったのではないだろうかと思わせるかのように姿を現せなくなったのだ。取材陣の波が引くのは思った以上に早く、きっと彼女には取材に追いかけられない平和な日常が戻ったことだろう。最後にしようと学校のグラウンドが見える場所に足を進めると、同じようにグラウンドを見つめる少女がいた。椎名深琴だ。

「椎名深琴さん?」
つい声に出してしまった。彼女は肩をビクつかせこちらをちらりと見てすぐに去ろうとした。

「お疲れ様!好きなことやるんだよ!!」

去ろうとする少女の後姿にずっと抱えていた気持ちを叫んだ。中学生らしく、年相応に、好きなことをするといい。大人から期待の眼差しを受けずに自分の好きなように過ごしてほしい。これが彼女に短い夢を見せてもらった者として、感謝と激励を込めた最短の言葉だと思ったからだ。彼女は足を止め、こちらを振り返り、「ありがとうございます」とだけ、笑顔で呟いて、足早に去っていった。




「この前、あなたが前に記事書いてた椎名深琴さんっぽい子見たわよ」

あれから1年と数ヶ月。会社の先輩がコーヒーを持って発した言葉に驚いた。
「どこでですか?」
「西浦高校、たぶん彼女だったと思うのよね」

西浦高校は夏大で桐青高校を破り、1年生だらけのチームでダークホースとして一部の記者に注目を浴び、先輩が非常に気にかけている学校だ。

「彼女が西浦高校に関わっているのであればもっとあの学校は有名になりそうです」
「あら、飛び出して行くかと思ったわ」
「まさか、きっと彼女自身は取材とかNGですよ」
「ふぅん。勝利の女神ねぇ」

どうして野球に戻ってきたのか、なにが彼女を呼び戻すのか。楽しい思い出以上に辛いことが多かっただろう。

「まるで君は野球に取り憑かれた亡霊だね」